2割特例の適用可否と簡易課税制度の適用手続き

税理士
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インボイス制度が始まり、消費税の申告や納税のルールが大きく変わりました。
特に、これまで免税事業者だった方が「課税事業者」となった場合、どのように納付税額を計算すればよいのか――混乱している方も多いのではないでしょうか。

今回は、インボイス制度開始後の中小事業者にとって重要な「2割特例」と「簡易課税制度」について、わかりやすく解説します。


1️⃣ 消費税の納付税額の基本構造

まず基本を押さえましょう。

消費税の納付額は次の式で求めます。

納付税額 = 売上に含まれる消費税(預かった消費税)- 仕入や経費に含まれる消費税(支払った消費税)

この「支払った消費税」を差し引く仕組みを仕入税額控除といいます。
通常は、支払った消費税の実際の金額(実額計算)に基づいて控除を行います。
その際、インボイス(適格請求書)の保存が必須要件となります。


2️⃣ 2割特例とは?

(1)制度の概要

2023年(令和5年)10月に導入された「2割特例」は、
免税事業者がインボイス発行事業者として登録した際の負担を軽減するための特例措置です。

通常のように支払った消費税を一つひとつ計算する代わりに、
「売上にかかる消費税の20%だけ納めればOK」という簡易的な方法です。

つまり――

🔹納付税額 = 売上税額 × 20%
(= 売上税額 − 売上税額 × 80%)

となります。
この「売上税額の80%を仕入税額とみなす」仕組みのため、「2割特例」と呼ばれています。

  • 適用期間:令和5年10月1日~令和8年9月30日まで
  • インボイスの保存は不要
  • 計算がシンプルで事務負担が大幅に軽減される

というメリットがあります。


(2)2割特例が使えないケース

ただし、2割特例が使えないケースがあります。

それは、インボイス制度とは関係なく課税事業者となる場合です。

具体的には――

基準期間(2年前)の課税売上高が 1,000万円を超える 課税期間では、2割特例は適用できません。

たとえば、令和6年の売上が1,000万円を超えた場合、
その2年後の令和8年分は自動的に課税事業者となるため、2割特例は使えなくなります。


3️⃣ 基準期間と課税売上高の考え方

(1)「基準期間」とは?

課税事業者かどうかを判断する基準となるのが「基準期間」です。
これは「その課税期間の2年前」を指します。

  • 個人事業主:前々年(例:令和7年分 → 基準期間は令和5年)
  • 法人:前々事業年度(1年決算を前提)

(2)「課税売上高」とは?

課税売上高とは、課税売上げの合計(税抜)-返品や値引き等の控除額です。
免税や非課税の売上(例:家賃収入など)は含まれません。


(3)免税期間を含む場合の注意点

令和5年10月1日にインボイス発行事業者となった個人事業者の場合、
令和5年のうち1~9月は免税、10~12月は課税事業者です。

この場合の令和7年分の基準期間(令和5年)では、
免税期間の売上も含めた1~12月分すべての課税売上高を計算に含めます。

💡注意点:免税期間の売上は税抜処理をせず、そのまま税込金額で集計します。


✅ まとめ
・基準期間に免税期間がある場合でも、その期間の売上も含めて課税売上高を計算する。
・その結果、売上高が1,000万円を超えると、2割特例は適用不可。
・ただし、5,000万円以下であれば「簡易課税制度」の選択が可能。


4️⃣ 簡易課税制度のしくみと手続き

(1)簡易課税制度とは?

「簡易課税制度」は、中小事業者のための簡略計算方式です。
売上に含まれる消費税額(売上税額)に、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を掛けて、
控除できる消費税額を計算します。

業種区分みなし仕入率
卸売業90%
小売業80%
製造業70%
飲食店業60%
サービス業50%
不動産業40%

例えば、小売業なら「売上税額×80%」を仕入税額とみなします。
インボイスの保存も不要で、計算もシンプルです。


(2)簡易課税制度の選択手続き

適用するには、次の条件を満たす必要があります。

  • 基準期間の課税売上高が 5,000万円以下
  • 課税期間の開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出

また、一度選択すると原則2年間は実額計算に戻せません
将来の設備投資予定なども考慮して判断しましょう。


(3)2割特例から簡易課税制度への切り替え特例

インボイスQ&A問117で示されているように、
2割特例を適用した翌年に簡易課税制度を使いたい場合には、
特別に「課税期間開始後」でも届出書を提出できる特例があります。

例:

  • 令和6年分で2割特例を使った場合
    → 令和7年12月31日までに届出書を提出すればOK!

ただし、提出期限を過ぎると手遅れです。
確定申告の準備段階で気づいても間に合いませんので、
年内(令和7年12月31日まで)に必ず提出を済ませましょう。


5️⃣ 実務でのチェックポイント

  • 🔸基準期間に免税期間がある場合は、免税期間の売上も税込で計上
  • 🔸2割特例は、基準期間の売上が1,000万円超なら適用不可。
  • 🔸2割特例を使った翌年は、簡易課税制度へ切り替えるなら年内に届出必須

✏️ まとめ

2割特例は、インボイス登録に伴う初期負担を軽減するための“期間限定の救済措置”です。
しかし、永続的に使える制度ではなく、売上規模や設備投資によっては簡易課税や実額計算を選ぶ方が有利になることもあります。


🧾 参考

  • 週刊税務通信(No3871 2025年10月13日)
  • 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問114~117
  • 「消費税法」令和5年度改正(令和5年10月施行)
  • 日本税理士会連合会:インボイス対応解説資料(2023年)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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