政府・与党は少額投資非課税制度であるNISAについて、18歳未満の子どもにも積み立て投資枠を解禁する方針を固めました。年間上限は60万円、総額では600万円まで投資できる制度となる見通しです。開始は2027年頃が想定されています。
家庭にとっては教育資金や将来資産づくりの選択肢が広がる一方、資産形成の格差を固定化する懸念など、政策目的や社会的な影響に関する議論も始まっています。今回は制度の概要とメリット、そして見逃せない論点について整理します。
1. 新制度の概要
今回示された改定案では、つみたて投資枠のみが18歳未満にも解禁される形となります。
- 年間投資上限:60万円
- 投資総額の上限:600万円
- 対象:0歳から18歳未満
- 引き出し:12歳以上で可能
- 投資対象:投資信託(つみたて投資枠のみ)
現行制度では18歳以上が対象で、成人してからしかNISA口座を使えませんでした。今回の拡充により、実質的には親や祖父母が子ども名義で早期から資産形成を進められるようになります。
また、成人後に開設する通常のNISAとは別枠で運用され、成人後は成長投資枠との合計で1800万円の非課税上限が維持される見込みです。
2. 制度が導入される背景
政府は2024年の制度恒久化以降、口座数が大きく伸びたものの、若年層の利用は限定的でした。25年6月末時点で約2700万口座に増えたものの、30~50代が約6割を占めています。
2027年末までに3400万口座という政策目標の達成には、若い世代への普及が不可欠でした。このため、出生直後からの口座開設や子育て世帯の資産形成支援を強化する意義があります。
政策的には、次の3つの狙いが透けて見えます。
- 教育資金の計画的形成を後押しする
- 「貯蓄から投資へ」をさらに早い世代から浸透させる
- 家計の中長期的な資産形成力を底上げする
子どもの教育コストが増えるなか、資金準備の手段として投資を自然と選択肢に入れてもらう意図も含まれているといえます。
3. 家計にとってのメリット
制度が実現すれば、家庭にとって以下のような効果が期待できます。
教育資金形成の選択肢が増える
12歳以降は引き出し可能とする仕組みが導入される見込みです。
進学塾、海外研修、私立高校など、多様化する教育費への対応がしやすくなります。
長期投資のメリットを最大化できる
0歳から18年間積み立てれば、複利効果を最大限活用できます。
手数料の低いインデックス投資と組み合わせれば、将来の資産形成における心理的・実務的なコストも軽減されます。
資産形成の学びの機会になる
実際の投資信託で運用されることで、子どもが成長するにつれて“自分の資産”として資産管理を学ぶきっかけにもなります。金融教育の実践につながる点も大きな特徴です。
4. 一方で見過ごせない論点
制度の対象は0〜17歳ですが、実際に資金を拠出するのは親や祖父母です。そのため、所得に余裕のある世帯ほど早期から投資を進められ、18歳時点での資産格差が広がりやすいという指摘があります。
主な論点としては次の通りです。
- 家庭間の資産形成格差の固定化
- 親が子どもの名義を利用した資金移転として使う可能性
- 投資判断の未熟さによるリスク管理課題
- 金融教育を受けられる環境格差の存在
政府は12歳未満の引き出し制限を設けることで不適切な利用を防ぐ方針ですが、政策目的と社会的負担のバランスについては今後も議論が続くと考えられます。
5. 子どもNISAを活用する際のポイント
制度が正式に始まれば、多くの家庭にとって魅力的な選択肢となります。ただし、活用にあたっては以下の観点が重要です。
- 投資対象はシンプルなインデックス中心にする
- 教育資金として途中引き出しする可能性を織り込む
- 親名義との併用も踏まえた資産配分を決める
- 将来、子ども自身が管理しやすい形に設計する
“教育費目的の投資”なのか “成人後の初期資産づくり”なのかで戦略は大きく変わります。目的ごとに積み立て期間とリスク許容度を調整することが必要になります。
結論
18歳未満のNISA解禁は、子育て支援と家計の資産形成力向上を同時に狙う大きな制度変更となります。教育資金の準備がしやすくなる一方、富裕層とそれ以外の世帯のあいだに運用資産の差が開く懸念も指摘されています。
家庭としては資産形成の選択肢が広がることを前向きに捉えつつ、制度の趣旨やリスク、資金計画の位置づけを丁寧に検討する姿勢が求められます。制度の詳細は今後の税制改正大綱で詰められていくため、引き続き内容を確認しながら自分の家計にどう活かすかを考えることが重要になります。
参考
日本経済新聞「18歳未満のNISA、積み立て上限600万円」(2025年12月10日)ほか政策関連報道。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

