令和8年度税制改正大綱では、所得控除のような直接的な税額調整だけでなく、
住宅取得や日常の生活コストに関する税制の前提も見直されています。
住宅ローン控除、通勤手当、食事補助はいずれも、
「税の優遇措置」として語られがちですが、
実際には税制が
どの支出を生活上不可欠なコストとみなすのか
を示す重要な制度です。
第3回では、これらの改正を
「いくら得か」ではなく、
税制がどこに線を引き直したのか
という視点から具体的に整理します。
住宅ローン控除は「延長」ではなく「選別」
住宅ローン控除は、長年にわたり住宅取得を後押ししてきた制度です。
令和8年度改正でも制度自体は維持されていますが、
内容を見ると、単なる延長ではありません。
今回の改正では、
どのような住宅取得を税制として支援するのか
という点が、より明確に整理されています。
住宅ローン控除の前提にある考え方
住宅ローン控除は、
「住宅を買えば一律に税を軽くする制度」ではありません。
税制上は、
- 長期間にわたり居住すること
- 一定の性能や安全性を備えていること
を前提に、
生活の基盤となる支出として扱われています。
令和8年度改正では、
この前提を満たさないケースについて、
控除の対象や限度額が調整されています。
省エネ基準が重視される理由
今回の改正でも、省エネ基準を満たす住宅が中心となっています。
これは環境政策だけが理由ではありません。
エネルギー価格が上昇する中で、
省エネ性能の低い住宅は、
取得後の生活コストが高くなりやすい
という現実があります。
税制としては、
取得時だけでなく、
住み続けるコストを含めて合理的な住宅
を生活基盤とみなす方向にあります。
中古住宅が税制上「不利」と言い切れなくなった
従来、住宅ローン控除は新築が有利と受け取られがちでした。
しかし、令和8年度改正では、
一定の耐震・省エネ基準を満たす中古住宅についても、
引き続き控除の対象とされています。
これは、
住宅価格の上昇を背景に、
中古住宅を現実的な選択肢と位置づけ直した結果といえます。
子育て世帯・若年夫婦への上乗せ措置の意味
住宅ローン控除では、
子育て世帯や若年夫婦世帯に対する借入限度額の上乗せ措置が設けられています。
この措置は、
「子育て世帯を優遇する」というより、
住宅取得のタイミングが家計に与える影響の大きさ
を考慮したものです。
取得時の負担が大きすぎると、
その後の生活費や教育費を圧迫しかねません。
税制は、このリスクを緩和する方向で設計されています。
住宅ローン控除は「使い切れない」こともある
実務上、見落とされがちなのが、
住宅ローン控除を 使い切れないケース です。
たとえば、
- 所得税・住民税がもともと少ない
- 借入残高が早期に減少する
といった場合、
控除額の上限まで税額が発生せず、
制度の効果が限定的になります。
住宅取得の判断では、
税制だけでなく、
返済計画や将来の収入見通しを含めて考える必要があります。
通勤手当は「実費補填」としてどう扱われたか
通勤手当は、一定額まで非課税とされています。
令和8年度改正では、
自動車通勤者を中心に非課税限度額が調整されています。
これは、
通勤が本人の裁量ではなく、
業務に付随して発生する支出である
という位置づけを、現実に即して見直したものです。
地域差を税制がどう受け止めたか
都市部では公共交通機関が前提となる一方、
地方では自動車通勤が一般的です。
今回の改正は、
こうした地域差を踏まえ、
通勤コストを一律に扱わない
という判断を示しています。
食事補助は「福利厚生」から「生活費」へ近づいた
食事補助の非課税枠引き上げも、
単なる福利厚生の拡充ではありません。
外食費や昼食代の上昇により、
従来の基準では
実態として生活費を十分にカバーできなくなっていた
ことへの対応です。
税制としては、
業務に付随して必要となる食事について、
生活費に近い支出として扱う範囲を広げたと整理できます。
第3回の改正から見える共通点
住宅、通勤、食事に共通しているのは、
税制が
「生活に不可欠な支出」を現実に合わせて再定義した
という点です。
優遇の拡大というより、
課税の前提条件を現実に近づけた調整といえます。
おわりに
第3回で取り上げた改正は、
派手な変更ではありません。
しかし、
- どの住宅を
- どの通勤コストを
- どの食費を
税制が生活費として認めるのか、
その考え方が明確に更新されています。
次回は、NISA、暗号資産、ふるさと納税について、
資産形成をどう支援し、どこで線を引いたのか
を、より踏み込んで整理します。
参考
・自由民主党「令和8年度税制改正大綱」
・国土交通省「住宅政策に関する資料」
・財務省「所得税非課税制度に関する資料」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
