1. 賃上げを打ち消す「高齢者医療への仕送り」
健康保険組合連合会(健保連)の集計によると、2024年度の健保組合による高齢者医療制度への拠出金は3兆8,591億円と過去最大に達しました。
この増加額は2,065億円で、健保全体の支出増(2,851億円)の7割を占めています。
一方、収入の増加要因の約5割(2,277億円)は賃上げ効果によるものでした。
つまり、せっかくの賃上げの恩恵が、高齢者医療への仕送りで相殺されてしまっているのです。
2. 保険料率は過去最高、手取りは伸び悩み
2024年度、健保組合の平均保険料率は9.31%と過去最高を記録。0.04ポイントの上昇により、1,069億円の増収が見込まれています。
これはそのまま働き手の負担増に直結します。
25年度には、後期高齢者医療制度への支援金が現役世代1人あたり13万7,146円となる見込みです。
制度が始まった2008年度から比べると約2倍に膨らんでいます。
しかし同じ期間に、賃金水準を示す標準報酬月額は1割しか伸びていません。
👉 「給料は上がっているのに、手取りは増えにくい」という感覚の背景には、まさにこの社会保険料負担の増加があります。
3. 健保連が提言する制度改革
こうした「現役世代の限界」を受け、健保連は25日、次のような改革を提言しました。
- 70~74歳の窓口負担を原則2割から3割に引き上げる
- 同じ成分をもつ市販薬がある薬の保険適用を除外する
佐野雅宏会長代理は「現役世代が高齢者の医療費を負担する構造は限界を迎えている」と強調しました。
4. 改革のハードルは高い
しかし、これらの提言には大きなハードルがあります。
- 窓口負担の引き上げには高齢者団体の強い反発
- 保険適用の縮小には患者団体の抵抗
- 日本医師会や病院団体はインフレを踏まえ、診療報酬の大幅引き上げを要求
診療報酬が増えれば健保の支払いも膨らみ、現役世代の負担はさらに重くなります。
5. まとめ ― 「世代間の公平性」への問い
- 高齢者医療制度への「仕送り」は年々増加し、賃上げ効果を打ち消している
- 現役世代の負担は制度開始から倍増し、手取りの伸びを圧迫
- 制度を維持するためには、高齢者の窓口負担見直しや保険適用範囲の再検討が不可避
人生100年時代の社会保障を持続させるには、避けて通れない「世代間の公平性」の議論が待ったなしです。
🖋️参考:
- 日本経済新聞朝刊(2025年9月26日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
