これまでの回では、家計の金融資産が過去最高を更新する一方で、60代以上の世帯の間で「資産ゼロ」と「資産3000万円以上」という二極化が進んでいる現状を見てきました。今回は、この二極化が社会全体にどのような影響をもたらすのかを考えてみます。
1. 老後の生活格差が社会問題化する
まず最も直接的なのは、老後生活の格差拡大です。
資産を持たない高齢者世帯は、年金収入だけに頼ることになります。しかし、年金額は現役時代の収入や就業状況に大きく左右されるため、十分な生活費を確保できない人も多いのが現状です。
- 食費や光熱費を切り詰める生活
- 健康診断や通院を控える
- 趣味や交際費を減らし、孤立感が強まる
こうした生活の質の低下は、本人の健康や精神状態に悪影響を及ぼすだけでなく、社会的な孤立や医療・介護の需要増加にもつながります。
一方で資産を持つ層は、豊かな消費や健康投資が可能で、生活の質を維持しやすい。つまり、「豊かな老後」と「苦しい老後」の差が社会問題として表面化することになります。
2. 医療・介護費用の負担増
資産を持たない高齢者が増えると、医療や介護の公的負担が重くなります。
- 所得や資産が少なければ、自己負担は小さく、国や自治体がカバーする部分が増える
- 生活習慣病や持病が放置され、重症化してから受診するケースが増える
その結果、医療費・介護費の総額は膨らみ、社会保障制度全体への圧力となります。すでに日本の社会保障費は年間130兆円を超えており、今後も高齢化に伴って増加が避けられません。資産格差の拡大は、この「負担増」をさらに加速させるリスクをはらんでいます。
3. 消費活動の分断
資産二極化は、消費行動にも影響します。
資産を持つ層は、旅行やレジャー、住宅リフォーム、健康関連サービスなどにお金を使いやすく、地域経済を支える存在になります。とくにシニア市場は今後も大きな需要源として注目されている分野です。
一方で資産を持たない層は、必需品中心の消費にとどまり、支出を控える傾向が強まります。結果として、市場全体の成長が鈍化する可能性があります。
つまり、シニア層が増えるにもかかわらず、その購買力は二極化し、社会全体の経済活力に影を落とすのです。
4. 世代間の公平感の喪失
高齢者世代内の二極化は、やがて世代間格差の議論とも結びつきます。
若い世代から見れば、
- 一部の高齢者は十分な資産と年金を持って豊かな生活を送っている
- 一方で公的支援が必要な高齢者も多く、その財源は現役世代が負担している
という構図になります。
この不公平感は、社会の分断や不信感を強める要因になります。とくに、若い世代が「自分たちの老後はもっと厳しいのではないか」と感じれば、消費や投資に対して慎重になり、経済全体の活力低下につながりかねません。
5. 地域社会への影響
資産二極化は、地域社会にも影響を与えます。
- 資産を持つ層は都市部に集中し、教育や文化活動への参加も積極的
- 資産を持たない層は地方や郊外に多く、医療・交通・福祉サービスの不足が深刻化
こうした地域間の格差は、人口減少と相まって「住む場所による不平等感」を広げていきます。特に過疎地では、高齢者の貧困が地域全体の衰退を加速させるリスクがあります。
6. 政策への影響と課題
資産二極化が社会全体に広がることで、政府や自治体は次のような課題に直面します。
- 年金・医療・介護など社会保障制度の持続可能性をどう守るか
- 貧困高齢者への支援と、資産を持つ層への課税強化のバランス
- 金融教育や資産形成支援を若年層からどう進めるか
また、国債の買い入れ減額を進める日銀の動きも含め、金融政策と財政政策の両立がますます難しくなっていきます。
まとめ
高齢者世代の資産二極化は、単なる個人の問題ではなく、
- 老後生活の格差拡大
- 医療・介護費用の増大
- 消費活動の分断
- 世代間の公平感の喪失
- 地域社会の衰退
といった形で社会全体に影響を及ぼします。
「家計金融資産が過去最高」というニュースの裏には、このような深刻なリスクが潜んでいるのです。
👉 次回(第5回)は「二極化時代に求められる資産形成のヒント」として、若い世代から高齢世代まで、どのように備えていけばよいのかを具体的に考えていきます。
📌参考:2025年9月19日付 日本経済新聞朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
