高市新政権の「賃上げロードマップ」――積極投資と中間層の底上げが試される日本経済

政策

2025年10月4日、自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障相が新総裁に選ばれました。
物価高・トランプ関税・賃金停滞といった難題が山積する中で、日本経済をどう立て直すのか。
市場関係者やエコノミストの注目は「成長戦略と賃上げの両立」に集まっています。


■ 積極財政と官民投資 ― 「高市トレード」の本質

高市氏は総裁選で「官民による積極投資」を明確に打ち出しました。
この姿勢は、かつてのアベノミクス初期を思わせる「成長志向型の経済政策」です。
一方で、今の経済環境はあの頃とは違います。

・物価高が長期化している
・トランプ関税で輸出コストが上昇
・中小企業の人件費負担が増大

――こうした現実の中で、投資をどう呼び込むかが最大の焦点です。

伊藤忠総研の武田淳氏は、「供給サイドを高めないと成長の余地は限られる」と指摘します。
つまり、“金を配る政策”ではなく、“稼ぐ力を取り戻す政策”が問われています。


■ 投資の芽は「ソフトウエア」と「AI」にある

長年、国内投資は停滞気味でしたが、最近はソフトウエア関連で明るい兆しも。
PwCコンサルティングの伊藤篤氏は、AIとデータ処理分野での日本の潜在力を強調しています。

「介護分野のデータをAIに生かすことで、世界の先進事例を作れる」

介護・医療・地域インフラ――高齢化社会を抱える日本だからこそ、
データ活用のモデルを発信できる可能性があります。
成長のキーワードは「デジタル×社会課題解決」になりそうです。


■ 賃上げの鍵は「中間層」と「給付付き税額控除」

物価高が続く一方で、実質賃金は下落傾向。
第一生命経済研究所の星野卓也氏は、
「中間層の所得向上を進める必要がある」と語ります。

その文脈で注目されるのが、高市氏が前向きな姿勢を見せる給付付き税額控除です。
これは、一定の所得層に対して減税と給付を組み合わせて支援する仕組み。
「働く中間層を支える制度」として欧米でも導入が進んでいます。

「制度設計には時間がかかるが、中間層の底上げにつながる」
(星野氏)

高市政権の経済政策は、短期の物価対策と中長期の所得再分配をどう両輪で回すかがカギです。


■ 現場では「人件費が上がりすぎて雇えない」現実も

一方で、中小企業の現場では厳しい声も上がります。

「人手不足なのに、従業員削減を検討せざるを得ないほど人件費率が膨らんでいる」
(関西の宿泊・飲食業)

最低賃金の上昇が続く中で、売上が追いつかない企業は少なくありません。
賃上げを実現するには、企業の生産性を高める構造的な支援策が必要です。
ここでも「AI・デジタル投資」が鍵を握ります。


■ 景気の先行きに漂う不安 ― 「採用控え」の兆しも

日銀短観では、2025年度の経常利益が前年比4.8%減の見通し。
関税コストや海外景気の鈍化が企業業績を圧迫しています。

厚労省の統計でも、8月の新規求人数は4カ月連続で前年割れ。
人手不足にもかかわらず、「将来が見えず採用を控える企業」が増えています。

このままでは「賃上げどころか雇用維持が精一杯」という声も出かねません。
景気と雇用の両立は、政府のスピード感ある政策対応にかかっています。


■ 「成長と分配の再構築」へ ― 日本経済の再起動なるか

高市新総裁は、まず物価高対策に取り組むとしています。
しかし、本質的な課題は“賃金の持続的な上昇”をどう実現するかです。

成長戦略の柱は次の3つになるでしょう。

  1. 官民連携による積極投資(AI・デジタル・グリーン)
  2. 中間層支援を軸にした再分配(給付付き税額控除など)
  3. 中小企業の生産性向上支援

日本経済の再起動には、単なる財政拡大ではなく、
「成長の質」を高める政策パッケージが欠かせません。

高市政権がそれを「実行とスピード」で示せるか――
まさにここからが“令和の経済再建”の正念場です。


出典

出典:2025年10月6日 日本経済新聞朝刊「新総裁、賃上げどう描く」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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