2025年10月下旬、就任直後の高市早苗首相が、国会での所信表明演説に臨みます。
演説原案には「税と社会保障の一体改革」「責任ある積極財政」「AI・成長戦略」「労働時間規制の見直し」など、今後の日本の方向性を左右する重要政策が並びました。
この記事では、特に注目される「給付付き税額控除」と「労働時間規制の緩和」について、分かりやすく整理してみましょう。
給付付き税額控除とは ― 「働く人を支える新しい仕組み」
高市政権の目玉の一つが「給付付き税額控除」です。
これは、所得税から控除を受けられない低所得層にも現金給付を行う制度です。
たとえば、所得税額が3万円の人に5万円分の控除を設けた場合、税金がゼロになり、差額の2万円が給付されるという仕組みです。
つまり、「働いても税負担が重く、手取りが増えない」層を直接支援できる制度です。
この制度は、かつて野田政権下でも議論されましたが、当時は制度設計が複雑で見送られました。
しかし、マイナンバー制度やデジタルインボイスなど所得把握の精度が上がった今こそ、実現の条件が整いつつあるとも言えます。
高市首相は、就任前からこの制度を自民党総裁選の公約に掲げており、連立相手の日本維新の会も「早急な制度設計を」と合意しています。
今後は、税制と社会保障の一体化をめざす「国民会議」で、超党派・有識者による議論が始まる見通しです。
労働時間の見直し ― 「働きたくても働けない社会」からの脱却へ
もう一つの注目点は、労働時間規制の緩和に向けた検討です。
現在の労働基準法では、残業は「月45時間」「年360時間」が原則で、繁忙期でも「月100時間未満」と厳しく制限されています。
これらの上限は、過労死ラインを防ぐ目的で設けられたものですが、
同時に「もっと働きたい」「副業をしたい」と考える人たちの働き方の自由を制限しているという指摘もあります。
高市首相は、「健康維持を前提に、働き手の選択を尊重する制度を検討する」よう指示しました。
厚生労働省の上野賢一郎大臣も、「誰もが働きやすい環境づくりをめざす」とコメントしています。
今後は、労使代表を交えた審議会での議論が本格化するでしょう。
過労防止と柔軟な労働の両立――このバランスをどうとるかが焦点になります。
成長戦略・防衛・外交にも広がる政策軸
演説では、経済・安全保障分野にも新たな方針が盛り込まれました。
- AI・半導体・量子などの戦略産業支援
「日本成長戦略会議」を新設し、国家レベルの投資促進を図る。 - 防衛費の前倒し増額
GDP比2%を2025年度中に達成する方針。 - 副首都構想
維新の主張を踏まえ、首都機能分散の議論を加速。 - 対中外交
「重要な隣国」と位置づけ、建設的かつ安定的な関係を模索。
いずれも、「積極財政」×「経済安全保障」×「構造改革」という3つの柱が見えてきます。
今後の焦点 ― 「一体改革」再び
2012年の「社会保障と税の一体改革」以来、十数年ぶりにこの言葉が政治の中心に戻ってきました。
高齢化・財政赤字・労働力不足という三重苦のなかで、「分断から統合へ」というメッセージが込められています。
給付付き税額控除が実現すれば、
- 「働いても報われない層」の可処分所得を底上げし、
- 「働く意欲」を支える新しい社会保障の形が見えてくるかもしれません。
その一方で、財源の確保や公平性の議論は避けて通れません。
政府・与野党・専門家が、短期的な人気取りではなく、長期的なビジョンで制度設計を行えるか――
これが高市内閣の真価を問う試金石となるでしょう。
出典:2025年10月23日 日本経済新聞朝刊「社会保障、超党派の会議 労働規制緩和も検討」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
