政治が市場に与えるインパクト
高市早苗氏が新首相に選出され、金融市場は「期待」と「現実」の間で揺れています。
株式、債券、為替——それぞれの市場で反応の温度差が見られました。
21日の東京株式市場では、日経平均株価が一時5万円に迫る水準まで上昇。
終値は前日比130円高の4万9316円と最高値を更新しました。
しかし午後には利益確定売りが優勢となり、荒い値動きに。
市場関係者の間では「高市氏の首相選出は一つの“イベント通過”」とする声が目立ちます。
野村証券の西哲宏氏は「就任を見越した買いが事前に入っていたため、
首相選出が売り場になった」と分析。政治イベントが短期的な相場の節目になった形です。
株式市場 ― “成長戦略”期待で上値余地も
それでも、株価上昇の土台となっている要因は変わっていません。
大和アセットマネジメントの建部和礼氏は次のように指摘します。
「インフレ、企業統治改革(コーポレートガバナンス)、
AI需要の拡大といった構造的な株高要因が続いており、
そこに政治的期待が一時的に上乗せされていた。」
高市政権の産業政策が成長分野への投資拡大に結びつけば、
緩やかな株価上昇が続く可能性もあります。
大和の予測では、年度内に5万2000円前後まで上値を試す展開が想定されています。
一方で、アセットマネジメントOneの酒井義隆氏は、
防衛・安全保障など政府支出が拡大する分野に注目。
ただし、「決算シーズンで業績が伸び悩めば、
一時的な調整もありうる」と慎重な見方も。
「公明党の連立離脱でも4万7000円で下げ止まった経緯から、
出遅れた投資家による買い意欲が下支えになる」
— 酒井氏
債券市場 ― 財政バランスへの安心感
一方、債券市場は安堵ムードです。
財務相に片山さつき氏(元地方創生相・元財務官僚)が起用されると伝わると、
長期金利の指標である新発10年国債利回りは1.655%に低下(価格は上昇)。
東海東京証券の佐野一彦氏はこう述べます。
「片山氏は財務省出身でバランス感覚に優れる。
市場は“暴走的な財政拡張”を避けるとみている。」
高市氏の「責任ある積極財政」路線がどの程度まで実行されるか、
今後の経済対策次第では金利の再上昇リスクもありますが、
少なくとも現時点では過度な金利上昇懸念は後退しています。
為替市場 ― 「120円台が実力」発言に注目集まる
為替市場では、片山氏が過去に「1ドル=120円台が実力」と発言していたことが
あらためて話題となりました。
ただし、構造的な円安要因(低金利・海外投資家の円売りなど)は依然強く、
21日午後には一時1ドル=151円60銭台と1週間ぶりの円安水準を記録。
その後、海外市場で152円台に下落する場面もありました。
今後については、食料品の消費税減税議論などで財政懸念が再燃すれば、
さらに155円台への円安もあり得ると、
三井住友銀行の鈴木浩史氏は指摘しています。
まとめ ― 「期待」と「実行力」を市場は見ている
高市政権の登場で、市場は“女性初の首相”という象徴性以上に、
政策実行力と財政運営のバランスを見極める段階に入りました。
- 株式:AI・防衛・企業改革を軸に上昇余地あり
- 債券:財政拡張懸念が後退し、金利上昇一服
- 為替:円安基調続くが、政策発言に敏感に反応
年末に向けて経済対策の具体化が進めば、
市場の「期待」は「検証」へと変わっていきます。
投資家にとって重要なのは、政治イベントの熱気に流されず、
中長期のファンダメンタル(企業業績・政策効果)を見極める姿勢です。
出典:2025年10月22日 日本経済新聞朝刊
「新政権発足、市場の見方 経済政策実現で株価に上値余地」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
