1. 「強い経済」への再挑戦
10月24日、高市早苗首相は国会で初の所信表明演説に臨み、「強い経済をつくる」「責任ある積極財政を進める」と強調しました。
「日本再起」を掲げる新政権は、自民党と日本維新の会の連立により誕生。経済成長を軸にした財政運営と、国民負担の軽減を両立させる「経済あっての財政」という新しい方向性を打ち出しました。
従来の「緊縮財政からの脱却」に踏み込みつつも、借金頼みを続けるわけにはいかない。
――つまり「積極財政×規律維持」という難題にどう挑むかが、政権の腕の見せどころです。
2. インフレ時代の「社会保障と財政」
インフレ下で膨張を続ける社会保障費。医療・介護分野では、物価上昇や人手不足が経営を直撃しています。
高市首相は「報酬改定を待たず、補助金で先行支援する」と表明しましたが、同時に歳出膨張を抑える“規律”も必要です。
診療報酬を1%引き上げれば医療費は約5,000億円増。
内閣府の試算では、インフレ率2%・実質成長1.2%が続けば、医療・介護の給付費は2060年度にGDP比12.7%に達する見込みです。
この流れを止めるには、医療技術の進展に見合う“適正配分”と経営の透明化が欠かせません。
例えば医療法人では、院長給与が年間3,000万円を超える例もあり、データ開示の義務化が今後の焦点になりそうです。
3. 給付付き税額控除 ― 社会保障と税の「一体改革」へ
首相は「税と社会保障の一体改革」を改めて打ち出し、与野党や有識者が参加する「国民会議」の設置を明言しました。
その柱となるのが 給付付き税額控除。
これは、所得税の控除額を引ききれない低所得者に対して、差額を現金で給付する仕組みです。
たとえば「5万円の給付付き税額控除」があれば、課税額が3万円の人は2万円を現金で受け取れる――つまり「働く世代を支える社会的セーフティネット」として注目を集めています。
この制度が実現すれば、税と社会保障の接点が「負担」から「還元」へと変わる可能性があります。
4. 医療・介護の構造改革と「攻めの予防」
高齢化に対応した新しい地域医療構想、電子カルテの普及、データヘルスの推進――高市政権は「健康医療安全保障」を新しい安全保障分野と位置づけました。
「攻めの予防医療」や「女性の健康総合センター」など、医療を支出ではなく投資と捉える姿勢が見られます。
この「医療=投資」発想は、成長戦略の一環でもあります。健康寿命を延ばし、社会保障の担い手を増やすことが「強い経済」への道筋になるとしています。
5. 危機管理投資と「成長の仕掛け」
成長戦略の要として掲げられたのが「危機管理投資」。
AI・半導体・量子・宇宙・バイオなどの先端分野への投資を、経済安全保障や防衛、国土強靭化と一体で進めるという構想です。
ここで注目したいのは、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国を目指す」という一文。
生成AI・データ連携・コンテンツ産業の輸出など、デジタル成長戦略を国家レベルで推進する意欲が示されました。
税理士・FPの立場から見ても、この分野への補助金・税制支援は今後の中小企業支援策の中核になるでしょう。
6. 試される「財政の規律」
積極財政を掲げても、財源の裏付けがなければ“打ち出の小槌”にはなりません。
医療費・防衛費・教育費のすべてが膨張する中で、財政の持続性をどう確保するか。
高市政権がいう「成長率の範囲内で債務残高の伸びを抑える」という方針は、一見合理的ですが、実行の難易度は高いものです。
社会保障の“インフレ対応”をめぐっても、歳出抑制と物価スライド要求の綱引きが続きます。
この「規律なき積極財政」に陥らないかどうか――まさに試されるのは、政治の覚悟です。
7. おわりに ― 「強い経済」から「持続する社会」へ
今回の所信表明は、成長と分配、積極財政と財政健全化、インフレと福祉――これら相反するテーマを同時に扱う“再構築の演説”でした。
高市政権が描く「強い経済」は、単なる景気刺激策ではなく、社会構造そのものを立て直す挑戦でもあります。
それを成功させる鍵は、「どこにお金を使うか」よりも、「何を持続させるか」。
つまり、未来への投資を“持続可能な制度”に結びつけられるかどうか――ここに日本の次の10年がかかっています。
📘 出典:
・日本経済新聞「高市首相の積極財政、試される規律 社保一体改革はインフレ対応難題」(2025年10月25日朝刊)
・日本経済新聞「危機管理投資で成長 外国人政策に司令塔」(2025年10月25日朝刊)
・高市早苗首相 所信表明演説(2025年10月24日、衆参両院)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

