高市早苗政権が発足し、日本経済は新たな局面に入りました。外交面ではアジア太平洋構想の推進や対米協調の深化など一定の成果が見られる一方で、中国との関係では台湾情勢を巡る緊張が続いています。
国内では、アベノミクス以来の重要課題である潜在成長率の引き上げ、労働市場の構造改革、AI革命への対応などが避けられないテーマとなっています。
本稿では、日本経済新聞の論点をベースに、日本が直面する経済課題と高市政権が取り組むべき方向性を、一般読者にも分かりやすく整理します。
1 潜在成長率の低迷と「窮乏化成長」
アベノミクスでは雇用の量的拡大が進みましたが、その中心は非正規雇用でした。結果として、潜在成長率はおおむね0.5%前後の低水準にとどまり、実質賃金の伸びも力強さを欠いています。
実質賃金は名目賃金とは異なり、労働生産性の伸びと交易条件(輸入価格と輸出価格のバランス)が重要な決定要因です。
この10年、日本はエネルギー価格高騰などの影響を受け交易条件が悪化し、生産性向上の恩恵が相殺されてきました。
さらに、少子高齢化に伴う社会保険料負担の増加が、勤労世帯の手取りを押し下げています。結果として、働いても生活水準が伸びにくい「窮乏化成長」の構図が定着しつつあります。
購買力平価で見た日本の労働生産性の国際順位は低下傾向にあり、1人当たりGDPの相対的な衰退にも歯止めがかかっていません。
2 AI革命が左右する未来の生産性
日本経済研究センターの推計では、AI革命により日本の全要素生産性(TFP)の伸びを現在の0.5%から最大1.5%へ引き上げる可能性が示されています。
米国ではAI革命が1920〜70年代の技術革新に匹敵する生産性向上をもたらし、中国もAIロボット分野を中心に大きな受益者となる見通しです。
しかし、AI革命の恩恵は国ごとに偏る可能性があります。現状では米国・中国が圧倒的に優位で、日本や欧州は1人当たりGDPで見た格差を縮めにくいとの見方もあります。
経済力格差の拡大を防ぐには、AIを使いこなせる人材の育成、働く人のスキル投資、企業のAI導入支援など、人的資本への抜本的な投資が必須となります。
3 労働市場改革と外国人材の活用
企業の人手不足は深刻で、労働供給を増やすためには制度改革の加速が必要です。
具体的には以下のような論点があります。
- 在職老齢年金の年収制限の緩和
- 定年制度の見直し・廃止
- 配偶者控除の廃止による労働時間制約の解消
- 正規と非正規の待遇格差是正
- 女性の賃金格差解消
- 年間24万人規模の外国人労働者受け入れ体制の整備
労働市場の二重構造を改め、「働きたい人が働ける環境」を整えることが、生産性向上への土台づくりとなります。
4 食料価格の高騰とコメ生産の戦略化
日常生活を直撃している食料品価格の上昇、とりわけコメの高騰は大きな課題です。
物価高を抑えるためには、単なる補助金ではなく、供給力の強化=増産体制の構築が重要になります。
日本のコメはインバウンド需要も取り込みやすく、農産物輸出10兆円目標の重点品目です。
輸出可能な増産を進めることは、家計支援だけでなく、食料安全保障政策としても意味があります。
5 勤労世帯の「手取り改善」には給付付き税額控除が不可欠
賃金が伸びない中で社会保険料負担が増えているため、働く層の手取りを増やすためには税・保険料の一体改革が求められます。
提案されているのは、
給付付き税額控除(日本版ユニバーサルクレジット)の導入です。
これは、
- 低所得層の就労意欲を維持
- 税・社会保険料負担を一体で調整
- 「130万円の壁」「年収の壁」問題を解消
といった効果が期待されます。
また、課税最低限を178万円に引き上げる案も、勤労世帯の手取り改善に寄与すると考えられます。
結論
高市政権にとって、最も重要な課題は「勤労世帯の窮乏化を止め、持続的成長の土台をつくること」です。
その中心にあるのは、生産性向上、人的資本投資、労働市場改革、食料供給力の強化、そして給付付き税額控除を軸とした働く世代の手取り改善です。
アベノミクス以降、日本経済は雇用・企業収益の改善を果たしながらも、家計への成果還元が十分ではありませんでした。
AI革命や人口構造の変化が進むなかで、政策の焦点を「働く人の生活を底上げし、未来の成長につなぐ方向」に再設定できるかどうかが、今後の日本経済を左右します。
高市政権がこれらの課題にどこまで踏み込めるのか、これからの政策運営が大きく問われています。
出典
- 日本経済新聞「高市政権が取り組むべき経済課題」(2025年11月27日付)
- 日本経済研究センター 世界経済予測(2075年までの長期試算)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
