食事の現物支給の非課税限度額はなぜ見直されたのか ― 42年ぶりの改正を読む

税理士
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会社が従業員に対して食事を提供する場合、その経済的利益は原則として給与所得として課税対象となります。
しかし、一定の要件を満たす場合には所得税が課されない取扱いが設けられており、企業の福利厚生制度の一つとして広く利用されてきました。

この食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額が、令和8年度税制改正により見直されることになりました。
非課税限度額は月額3,500円から7,500円へと引き上げられます。さらに、深夜勤務者に対する夜食代についても、非課税限度額が1回300円から650円へ引き上げられる予定です。

これらの基準額は42年間据え置かれてきたものです。今回の見直しは、長年固定されてきた税制上の基準額を物価上昇の観点から再点検する動きの一環として位置付けられています。

本稿では、食事の現物支給の税務上の仕組みと、今回の改正の意味について整理します。


食事の現物支給と所得税の基本的な考え方

給与所得は、金銭で支払われる給与だけではなく、会社から受ける経済的利益も課税対象になります。
そのため、会社が従業員に食事を提供した場合、その食事の価額は本来給与として課税される性質を持ちます。

しかし、企業の福利厚生の実態を踏まえ、一定の要件を満たす場合には課税しない取扱いが認められています。
この制度は、社員食堂などの福利厚生を過度に税務上不利に扱わないための仕組みといえます。


非課税となるための二つの要件

食事の現物支給が非課税となるためには、次の二つの要件を満たす必要があります。

第一に、従業員が負担する食事代が、食事の価額の50%以上であることです。
つまり、会社が食事代の全額を負担する場合には、この要件を満たさないため課税対象となります。

第二に、会社が負担する金額が一定額以下であることです。
具体的には、食事の価額から従業員が負担する金額を差し引いた残額が月額3,500円以下である場合に限り非課税となります。

この「会社負担部分の上限」が、今回の改正の対象となっています。


今回の税制改正の内容

令和8年度税制改正では、この非課税限度額が大幅に引き上げられます。

改正のポイントは次のとおりです。

・食事の現物支給の非課税限度額
 月額3,500円 → 月額7,500円

・深夜勤務者の夜食代(現金支給)の非課税限度額
 1回300円 → 650円

これらの改正は、令和8年4月1日以後に支給される食事から適用される予定です。

企業の社員食堂や食事補助制度にとっては、福利厚生制度を再設計する契機となる可能性があります。


深夜勤務者の夜食代の取扱い

深夜勤務者に対しては、夜食を現物で支給する代わりに金銭を支給する場合があります。
例えば、会社に調理施設がない場合などがこれに該当します。

この場合、通常の給与に加算して支給される金銭であっても、一定額以下であれば課税しなくて差し支えないとされています。

具体的には、次の条件を満たす場合です。

・午後10時から翌午前5時までの時間帯に勤務する深夜勤務者であること
・夜食の現物支給が著しく困難であること
・勤務1回ごとに定額で支給されること

これまで非課税とされる金額は1回300円以下でしたが、今回の改正により650円以下へ引き上げられる予定です。


42年間据え置かれていた基準額

今回の改正で注目されるのは、これらの基準額が42年間据え置かれていたという点です。

この間、日本経済は長らく低インフレの状態にありましたが、近年は物価上昇が続いています。
食料品価格の上昇は企業の福利厚生コストにも影響を与えており、従来の基準額では実態に合わなくなっていました。

令和8年度税制改正大綱では、こうした事情を踏まえ、長年据え置かれてきた税制上の基準額を網羅的に点検する方針が示されています。

食事支給のほかにも、マイカー通勤の通勤手当の非課税限度額などについて見直しが検討されています。


福利厚生制度と税制の関係

企業の福利厚生制度は、賃金とは異なる形で従業員の生活を支える役割を持っています。
社員食堂や食事補助制度は、その代表的な例です。

税制がこれらの制度をどのように扱うかは、企業の制度設計にも影響を与えます。
非課税限度額が低すぎる場合、企業が福利厚生として食事を提供しても、税務上は給与課税が発生してしまう可能性があります。

今回の見直しは、福利厚生制度の実態に合わせて税制の基準額を調整するという意味を持っています。


結論

令和8年度税制改正では、食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額が42年ぶりに見直されることになりました。

非課税限度額は月額3,500円から7,500円へ引き上げられ、深夜勤務者の夜食代も300円から650円へ引き上げられる予定です。

今回の改正は、長年据え置かれてきた税制上の基準額を物価上昇に合わせて見直す動きの一環です。
今後も、通勤手当など他の基準額について同様の見直しが検討される可能性があります。

税制は一度決まると長期間変更されないことも少なくありません。
しかし、経済環境が変化する中で、制度の前提となる基準額を定期的に点検することは重要といえるでしょう。


参考

税のしるべ
「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額などは今年4月1日以後に支給の食事で引上げ」
2026年3月9日

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