非居住者期間でも損失申告書は出せるのか 上場株式等の繰越控除と連年提出要件の実務整理

税理士
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海外勤務などにより非居住者となるケースは珍しくありません。その際に見落とされがちなのが、上場株式等の譲渡損失の繰越控除の取扱いです。

特に問題となるのが「連年提出要件」です。非居住者となり申告義務がなくなった場合でも、この要件を満たせるのかという点は、実務上の大きな不安要素でした。

今回、名古屋国税局の文書回答により、この点について一定の整理が示されました。

本稿ではその内容を踏まえ、制度の構造と実務上の判断ポイントを整理します。


上場株式等の譲渡損失の繰越控除の基本構造

上場株式等の譲渡損失は、一定の要件を満たすことで、翌年以後3年間にわたり繰り越して控除することができます。

この制度の核心は、「損失を繰り越せること」ではなく、「繰り越すための手続を毎年継続すること」にあります。

具体的には、次の2つが必要です。

  • 損失が生じた年に確定申告を行うこと
  • その後も連続して確定申告書を提出すること(連年提出要件)

この連年提出要件は形式要件であり、一度でも欠けると、それまでの繰越損失は原則として切り捨てられます。

つまり、この制度は「継続して申告する人だけに認められる制度」といえます。


問題となる非居住者期間の取扱い

問題は、納税者が途中で非居住者となった場合です。

非居住者になると、原則として国内源泉所得がなければ確定申告義務はありません。また、恒久的施設を有しない場合には、日本での所得税申告自体ができないケースもあります。

ここで制度上の矛盾が生じます。

  • 連年提出要件 → 毎年申告が必要
  • 非居住者 → そもそも申告できない

この状態では、制度上は繰越控除が途切れてしまうようにも見えます。


文書回答の結論 損失申告書の提出は可能

今回の文書回答では、この点について明確な解釈が示されました。

結論は次のとおりです。

  • 恒久的施設を有しない非居住者であっても
  • 損失申告書の提出は可能である
  • これにより連年提出要件を満たすことができる

ここで重要なのは、「確定申告書」ではなく「損失申告書」という点です。

通常の申告ができない状態であっても、損失の繰越のためだけの申告書は提出できると解されました。


制度の根拠となる条文構造

この解釈の根拠となっているのが、租税特別措置法第37条の12の2第9項です。

同条項は、一定の場合において損失申告書の提出を認める規定です。

今回の整理では、この規定を用いることで、

  • 非居住者であっても
  • 連年提出要件の形式を維持できる

という構造が明確になりました。

つまり、制度としては「申告義務の有無」と「繰越要件としての申告」は切り分けて考えられているということです。


実務上の重要ポイント

この論点は、実務では次の点で非常に重要です。

1 申告不要でも「出さない」はNG

非居住者期間中は、確定申告義務がないため、何も提出しないという判断をしがちです。

しかし、繰越控除を維持する目的であれば、損失申告書は提出すべきです。

ここを誤ると、帰国後に繰越控除が使えなくなるリスクがあります。


2 「連年提出要件」は形式要件である

この制度は実質ではなく形式で判断されます。

  • 所得があるかどうか
  • 税額が発生するかどうか

ではなく、「毎年提出しているか」で判断されます。

したがって、実務では「提出の継続」が最優先事項になります。


3 非居住者期間の管理が重要

海外勤務などの場合、数年単位で非居住者となることもあります。

その期間すべてについて、損失申告書の提出を継続する必要があります。

一度でも抜けると、それまでの繰越損失が無効になる可能性があるため、スケジュール管理が極めて重要です。


4 帰国後の適用に直結する論点

今回の事案でも、最終的な目的は帰国後の繰越控除の適用です。

非居住者期間中の対応が、そのまま将来の節税可否に直結します。

この意味で、この論点は「将来の税負担を左右する事前管理」と位置づけるべきです。


制度の本質 形式を維持するための仕組み

今回の文書回答から見えてくる制度の本質は、「形式を維持するための逃げ道が用意されている」という点です。

本来、非居住者は申告制度の外側にあります。

それでもなお、繰越控除という制度を維持したい場合には、

  • 損失申告書という特別な手段を用いる

という構造になっています。

これは制度としての一貫性というよりも、「納税者の不利益を回避するための調整規定」と捉えるのが実務的です。


結論

非居住者となった場合であっても、上場株式等の譲渡損失の繰越控除を維持することは可能です。

そのためには、

  • 非居住者期間中であっても損失申告書を提出すること
  • 連年提出要件を形式的に満たし続けること

が不可欠です。

この論点は、制度理解というよりも「手続の継続管理」がすべてを決める領域です。

海外勤務や転居が予定されている場合には、事前に対応方針を整理しておくことが重要です。


参考

税のしるべ 2026年3月23日
非居住者となった場合の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用における損失申告書の提出の可否

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