銅価格が1万ドル時代に入った理由—AI・EV・データセンターが生む“構造的な需要”と供給制約(第2回)

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銅の国際価格が1トン1万ドルを超え、歴史的な高値圏に入っています。2020年以降の脱炭素・電化の急拡大に加え、直近では生成AIの普及によるデータセンター需要の増大が新たな追い風となりました。
一方、鉱山の事故や鉱石品位の低下が供給側の制約を強め、製錬会社の減産も相次いでいます。本稿では、銅価格が“高止まりする構造”を整理し、なぜ1万ドル時代が定着しつつあるのかを解説します。

1. 銅価格が1万ドルを再突破した背景

ロンドン金属取引所(LME)3カ月先物は2024年10月に1トン1万1200ドル台を記録し、2024年5月以来の高値を付けました。その後も1万ドル前後の高値圏が続いています。

上昇要因の中心は次の2つです。
(1)供給不安:鉱山事故・鉱石品位の低下
(2)需要増加:EV・データセンター・AIの急拡大

脱炭素とデジタル化、2つの大型トレンドが同時に銅の需給を逼迫させました。


2. 供給側の制約:事故・鉱石不足・加工賃の低迷

(1)主要鉱山で事故が頻発

2024年は世界の有力鉱山で事故が相次ぎました。

  • インドネシア・グラスベルグ鉱山:土砂流入事故
  • コンゴ民主共和国:稼働トラブル
  • チリ:老朽鉱山の生産効率低下

これにより、世界の銅鉱石フローが一時的に乱れ、製錬会社への供給に影響が生じました。

(2)鉱石品位の低下と「売り手市場」

銅鉱石の品位(含有率)は世界的に低下傾向にあり、同じ量の地金を作るために、より多くの鉱石が必要になります。

鉱山企業は、

  • 品位低下
  • 開発コスト増加
  • エネルギー価格上昇
    を背景に、鉱石の販売価格(TC/RCの交渉条件)を引き上げています。

結果として製錬会社は利益を確保しづらくなり、加工賃の低迷 が続いています。

(3)製錬会社の減産が始まった

国内でも動きが顕在化しています。

  • 三菱マテリアル:25年度下期の地金生産を14%減産
  • JX金属など4社:原料調達事業の統合協議を発表

世界的にも、スペインや韓国の製錬会社が苦境に陥っており、供給不安の連鎖が起き始めています。

需要が増えているのに供給は伸びない
銅価格が高値になりやすい典型的な構図です。


3. 需要側の変化:AI・EV・データセンターで“銅消費”が急増

(1)銅はなぜ「新時代の石油」なのか

銅は電気を運ぶ素材であり、電力インフラの基本を支えます。
電化社会の進展=銅需要の増加 という図式です。

次の分野で需要が急拡大しています。

  • データセンター(AIサーバー)
    AI処理には膨大な電力が必要で、配線・冷却設備に大量の銅が使われます。
  • 電気自動車(EV)
    ガソリン車より2〜3倍の銅を使用。モーター・インバーター・配線が中心。
  • 再生可能エネルギー(太陽光・風力)
    発電設備と送電網の強化で大量の銅を使用。

(2)中長期で増え続ける需要

ICSG(国際銅研究会)は以下の見通しを示しています。

  • 2025年:地金消費 +3.0%
  • 2026年:地金消費 +2.1%

IEAも2050年までに銅需要が24年比で5割以上増えると試算しています。

脱炭素×デジタル化×AI の組み合わせは、銅需要を構造的に押し上げています。


4. なぜ「1万ドル時代」が定着するのか

(1)ゴールドマン・サックスの分析

米ゴールドマン・サックスは2024年10月に、
「1万ドルが新たな下限となる」
とするレポートを公表しました。

理由は次の通りです。

  • 供給がすぐに増えない(鉱山開発は10年単位)
  • AI関連投資が需要を底上げ
  • EVシフトが続く
  • 脱炭素インフラ投資が加速

26〜27年は1万〜1万1000ドルのレンジで推移する可能性を示しています。

(2)平均価格も1万ドルに迫っている

2025年平均(11月まで)は 約9,750ドル と大台が目前。
2020年のコロナ禍と比べて約6割の上昇となっており、高値が“新常態”になりつつある ことが分かります。


5. 日本企業・家計への影響:コスト上昇の連鎖

銅価格の上昇は、次のような形で波及します。

企業

  • 電線・配線のコスト増
  • データセンター建設費の増加
  • モーター部品・自動車コストの上昇
  • 設備投資計画の圧迫

家計

  • EVの価格上昇
  • 住宅設備の値上げ(給湯器・配線など)
  • エアコン・家電のコスト上昇
  • 電気料金の上昇圧力

素材価格は最終製品価格に転嫁されるため、生活者も無関係ではいられません。


結論

銅価格の高騰は、一時的な投機ではなく 供給制約と需要急増が重なる“構造的な現象” です。
AI・EV・再エネなどの成長分野の中核に位置づけられる銅は、今後も高い需要を維持し、1万ドル台を中心とした価格帯が“新常態”となる可能性が高まっています。

日本企業は調達戦略の見直しが求められ、家計も商品価格や電気料金の変化として影響を受ける局面が増えるでしょう。
次回以降は、銅以外の重要素材にも焦点を当て、脱炭素と資源価格の関係をさらに深掘りしていきます。


出典

・日本経済新聞(銅価格に関する報道)
・国際銅研究会(ICSG)
・国際エネルギー機関(IEA)
・主要資源統計(世界銀行 Commodity Markets)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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