銀行の仮想通貨参入 ― 税・法務・リスク管理からみる新時代の金融秩序

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1. 「解禁」のインパクト ― 金融秩序の転換点

金融庁は、銀行グループ傘下の会社が仮想通貨取引を手掛けることを認める方向で規制緩和を検討しています。
同時に、銀行本体による仮想通貨の保有も容認する方向が議論されており、伝統的金融とデジタル資産の垣根が崩れつつあります。

これまで仮想通貨は、SBIや楽天のような証券会社グループ中心の「周縁的」な領域でした。
それが銀行グループに開放されることで、信頼性・資金力・情報管理体制を備えた主体が市場に参入することになります。
つまり、仮想通貨が“周辺”から“中核”の金融資産へと位置づけを変えつつあるのです。


2. 金融庁が想定するリスク管理 ― 「自由化と監督」の両立

(1)財務健全性の確保

銀行による仮想通貨保有が認められれば、保有資産の時価評価・価格変動リスク管理が不可欠になります。
有価証券同様に「公正価値評価」を前提とし、自己資本比率規制(バーゼルⅢ)への影響も想定されます。

また、銀行の投資部門が暗号資産を保有する場合は、リスク・アセットとしての区分管理や、リスク集中制限の明確化が求められます。
金融庁は監督指針を改正し、「預金者保護」と「健全経営の維持」を前提に監督枠組みを整える方針です。

(2)AML/CFT(マネロン・テロ資金供与対策)

仮想通貨取引は匿名性が高く、国際的にマネロン対策が最大の焦点です。
銀行系の交換業者には、FATF勧告に基づくトラベルルール対応・KYC(本人確認)強化が義務付けられます。
また、国際送金にステーブルコインが利用される場合、トレーサビリティ確保が一層重要になります。


3. 法務面 ― 「銀行法」「資金決済法」「金商法」の交錯

(1)銀行法施行規則の改正

現行の銀行法施行規則は、銀行子会社の業務を「健全な銀行業務を阻害しない範囲」に限定しています。
ここに仮想通貨交換業を新たに追加する改正が焦点となります。

(2)資金決済法との整合性

仮想通貨(暗号資産)は資金決済法上の「暗号資産」として定義されています。
発行・管理には金融庁登録が必要であり、銀行グループ傘下での業務登録スキームが再設計される見通しです。

(3)金商法との接点

今後、銀行系証券が仮想通貨を投資商品として販売する場合、
「集団投資スキーム持分」や「デリバティブ取引」としての法的整理が課題になります。
すなわち、「どの法律の下でどの枠組みで提供されるのか」という区分を曖昧にしないことが、実務上の焦点となるでしょう。


4. 税務面 ― 「法人保有」と「投資商品販売」で異なる取扱い

(1)銀行・子会社の保有税務

銀行が自己勘定で仮想通貨を保有する場合、法人税法上は時価評価差益・差損の課税が原則となります。
期末時点の時価評価によって損益が計上されるため、含み損益の変動が決算に直結します。
税務上は「棚卸資産」または「短期保有有価証券」に近い扱いになる可能性があり、税務会計の整備が急務です。

(2)顧客向け販売の課税

銀行系証券が仮想通貨を販売する場合、個人投資家側では引き続き雑所得扱い(総合課税)です。
ただし将来的に「金融所得課税の一体化」が進めば、申告分離課税(20.315%)への統一議論が再燃する可能性があります。
税理士・FPにとっては、仮想通貨を含めた資産ポートフォリオの課税最適化という新テーマが登場します。


5. ステーブルコインとの関係 ― 「銀行預金と並ぶ資金決済インフラ」へ

日銀・氷見野副総裁が述べたように、ステーブルコインが銀行預金の一部を代替する可能性が現実味を帯びています。
銀行は、預金流出のリスクを抱える一方で、自ら発行・連携することで新たな収益機会を得る構図です。

米国では「ジーニアス法」が制定され、ステーブルコイン発行者に連邦準備制度理事会(FRB)登録を義務付ける仕組みが導入されました。
日本でも、3メガバンク連合による円建てステーブルコイン共同発行が予定されており、
今後は「民間デジタル通貨」と「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の共存設計が鍵となります。


6. 実務者が今から備えるべきこと

  1. 仮想通貨・ステーブルコインの法的位置づけを整理する
     (銀行法・資金決済法・金商法・法人税法の重なりを把握)
  2. 顧客向け説明義務・リスク開示体制の整備
     (適合性原則・勧誘規制・苦情対応マニュアルの見直し)
  3. リスクアセット管理・税務処理の明確化
     (時価評価・評価損益の税務影響を把握)
  4. AML/CFT・サイバーセキュリティ対策の強化
     (トラベルルール・データ保護法制との整合)

この規制緩和は、単なる金融商品の拡充ではなく、
「銀行・証券・フィンテックの境界線が再定義される制度改革」と位置づけるべきものです。


出典・参考

  • 「仮想通貨、銀行系に解禁」日本経済新聞(2025年10月22日)
  • 「ステーブルコイン『銀行預金を一部代替も』」日本経済新聞(2025年10月22日)
  • 金融庁「金融審議会・総会・作業部会資料」
  • 日本暗号資産取引業協会(JVCEA)資料
  • 日本銀行講演資料(2025年10月)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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