1. 金融庁が動いた ― 仮想通貨を「銀行グループ」へ開放
金融庁が、銀行グループ傘下の会社に仮想通貨(暗号資産)取引を認める方向で検討を始めました。
これまで銀行法の施行規則では、銀行グループの子会社が仮想通貨交換業者として登録することは認められておらず、主に証券会社グループ(SBI、楽天など)がその役割を担ってきました。
しかし、10月22日に開かれる金融審議会の作業部会で、金融庁は施行規則を改正し、銀行系証券などにも仮想通貨ビジネスを解禁する方向で議論を始めます。
目的は大きく二つ――
- 仮想通貨市場の裾野を広げること
- 銀行系証券と証券会社グループとの競争条件の公平化
今後、三菱UFJ・三井住友・みずほといったメガバンク系の証券会社が、ビットコインやイーサリアム取引を扱う可能性が出てきました。
2. 銀行も仮想通貨を「保有できる」時代へ
もう一つの大きな変化は、銀行本体による仮想通貨の取得・保有が解禁される方向にあることです。
これまで銀行は、価格変動リスクの高い仮想通貨を「投資目的」で保有することを禁止されてきました。
金融庁は今後、監督指針を改正して、仮想通貨を国債や有価証券と同じ投資資産の一つとして認める見通しです。
ただし、当然ながら銀行経営への影響や預金者保護を重視し、財務の健全性を担保するルールが同時に整備されます。
3. 背景にある「市場拡大」と「国際競争」
日本暗号資産取引業協会(JVCEA)によると、国内の仮想通貨稼働口座は約788万(2025年8月時点)と、5年で4倍に増えています。
海外ではすでに、英スタンダードチャータード銀行などが機関投資家向けに仮想通貨取引サービスを開始しており、伝統的金融機関の参入がグローバルに進行中です。
日本も、金融機関による健全な枠組みのもとで市場を拡大し、「安全な暗号資産市場」を整える局面に入っています。
4. ステーブルコインが「銀行預金を代替」する未来
一方、日銀の氷見野良三副総裁は21日の講演で、
「ステーブルコインは銀行預金の役割を部分的に代替し、国際決済システムの主要プレーヤーとなる可能性がある」
と述べました。
ステーブルコインとは、円やドルなどの法定通貨に価値を連動させたデジタル通貨。
例えば、1コイン=1円(または1ドル)として、ネット上で送金・決済ができる仕組みです。
裏付けとして、発行者は国債や預金を保有します。
アメリカでは7月にステーブルコインを対象とした初の包括的な連邦法「ジーニアス法」が成立。法整備を機に流通額が急拡大しました。
日本でも、JPYC社が金融庁の登録を受けて円建てステーブルコインを発行予定。
さらに、三菱UFJ銀行などの3メガバンクも共同発行を計画しています。
民間のデジタル通貨が「銀行預金を補完する時代」が現実味を帯びてきました。
5. 中央銀行デジタル通貨(CBDC)とのすみ分け
デジタル通貨には、民間発行のステーブルコインだけでなく、中央銀行が発行するCBDC(Central Bank Digital Currency)もあります。
欧州中央銀行(ECB)は「デジタルユーロ」の制度設計を進めており、個人の保有上限を3,000ユーロ(約52万円)に制限して、銀行預金の流出リスクを抑える案を公表しています。
日本銀行もCBDCの実証実験を進めており、民間ステーブルコインとの役割分担や競争関係が今後の焦点です。
6. 投資家・個人が意識すべきポイント
仮想通貨やステーブルコインをめぐる制度整備は、単に「投資チャンスの拡大」ではなく、
金融システム全体の再設計に関わる動きです。
- 銀行による仮想通貨保有が進めば、「信頼性のある取引所」が増える
- ステーブルコインが普及すれば、「送金コストの低下」や「海外決済の効率化」が進む
- 同時に、価格変動・ハッキング・規制変更などのリスク認識がより重要になる
投資家・消費者にとっても、「デジタルマネーの未来図」を理解することが、これからの資産形成・マネーリテラシーに欠かせません。
出典
- 「仮想通貨、銀行系に解禁」日本経済新聞(2025年10月22日)
- 「ステーブルコイン『銀行預金を一部代替も』」日本経済新聞(2025年10月22日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

