高齢者医療制度を巡り、静かですが大きな制度転換が進もうとしています。
政府は、後期高齢者医療制度などの保険料算定において、これまで十分に反映されてこなかった金融所得を勘案する仕組みの構築を検討しています。対象は主に、確定申告をしていない上場株式の配当や売却益などです。
年金や給与と比べて把握が難しかった金融所得を保険料に反映させることで、世代内・世代間の公平を図る狙いがありますが、実務や家計への影響は小さくありません。本記事では、この見直しの内容と今後の影響を整理します。
なぜ金融所得が対象になるのか
後期高齢者医療制度の保険料は、主に年金収入などの所得を基に算定されています。一方で、上場株式の配当や譲渡益については、申告不要制度を利用することで住民税の所得情報に反映されないケースがありました。
この結果、金融資産から相応の収入を得ている人と、そうでない人との間で、保険料負担に差が生じているとの指摘が以前からありました。今回の見直しは、こうした不公平を是正することを目的としています。
想定されている所得計算の仕組み
社会保障審議会医療保険部会では、金融所得を勘案した所得計算の考え方が示されています。
具体的には、課税所得等に「申告不要選択が可能な金融所得」を一旦加算し、その後、実際に申告した金融所得分を控除する形で、保険料算定用の所得を算出する仕組みが想定されています。
これにより、これまで住民税の所得情報だけでは把握できなかった金融所得も含めて、保険料の算定が行われることになります。
特定口座年間取引報告書の活用
制度を実現するうえで鍵となるのが、金融機関が税務署に提出している法定調書です。特定口座年間取引報告書などを活用し、税務署と後期高齢者医療広域連合との間で新たな情報連携を構築する案が検討されています。
これにより、確定申告をしていない金融所得についても、制度上は把握可能になります。もっとも、情報連携には個人情報保護や事務負担の問題もあり、慎重な制度設計が求められます。
制度導入までのスケジュール感
政府は、通常国会に関連法改正案を提出することを想定していますが、成立後すぐに制度が始まるわけではありません。
国、金融機関、自治体での準備に2〜3年、さらに法定調書のオンライン提出義務化などを経て、実際に保険料や窓口負担に反映されるまでには4〜5年程度かかると見込まれています。
所得は前年分が翌年6月に確定し、その年8月からの保険料等に反映される流れとなる見通しです。
税と保険料の関係はどう変わるか
上場株式の配当等については、かつて所得税と住民税で異なる課税方式を選択できましたが、現在は課税方式が統一されています。
これまでは、税負担だけでなく、保険料への影響を考慮して課税方式を選ぶ人も少なくありませんでした。しかし、保険料算定に申告不要の金融所得も含まれることになれば、課税方式による保険料の差は基本的になくなります。
今後は、税と社会保険料を一体で考える必要性が、より一層高まるといえます。
賦課限度額引き上げとのセットでの影響
後期高齢者医療保険料については、賦課限度額の引き上げも議論されています。金融所得の反映と限度額引き上げが同時に進めば、対象者にとっては負担増となる可能性があります。
特に、年金収入はそれほど多くなくても、金融資産から安定的な収入を得ている層にとっては、影響が顕在化しやすい制度改正といえるでしょう。
結論
今回の見直しは、医療保険制度における公平性を高めるという点では合理性があります。一方で、これまで表に出にくかった金融所得が保険料算定に反映されることで、高齢期の家計設計に新たな視点が求められるようになります。
今後は、税負担だけでなく、医療・介護保険料まで含めたトータルの負担を見据えた資産運用や収入設計が重要になります。制度の詳細は今後詰められていきますが、早い段階から動向を把握しておくことが、将来の備えにつながるといえるでしょう。
参考
・税のしるべ「後期高齢者医療制度等の保険料で金融所得を勘案する仕組み構築へ」(2025年12月22日)
・社会保障審議会 医療保険部会 資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

