金融所得と保険料の見直し― 配当・投資と社会保障負担の新ルール ―

政策

1. 「投資で得た利益」が保険料に影響する?

これまで、会社員や公務員が株式や投資信託で得た利益(金融所得)は、
医療保険や介護保険の保険料には反映されない仕組みになっていました。

たとえば、

  • 給与所得 … 保険料計算に反映される
  • 株式配当や譲渡益 … 確定申告をしなければ保険料に反映されない

つまり、確定申告をしない(源泉徴収だけで完結)場合、
投資でどれだけ利益を得ても、医療や介護の保険料は増えない、という状態が続いてきたのです。


2. なぜ見直されるのか

政府・与党(自民党・日本維新の会・公明党)の3党合意では、

「株式配当などの金融所得を確定申告しなければ、医療や介護の保険料が軽くなる現状の是正」
が明記されました。

これは、所得の種類によって保険料負担が不公平になるという問題意識から来ています。

たとえば、

  • サラリーマンA:給与800万円 → 保険料反映
  • 投資家B:給与300万円+配当500万円 → 保険料は給与分だけ

このような「所得構造の違いによる負担の不均衡」を正す狙いがあります。


3. 改正の方向性

政府は2025年度中に制度設計をまとめ、2026年度以降の実施を目指しています。
検討されているのは、次のような仕組みです。

現行改正後(検討案)
配当・譲渡益は確定申告しなければ保険料に反映されない金融機関の情報連携により、申告の有無にかかわらず反映
健康保険・介護保険ともに「給与中心」給与+金融所得を合算して保険料計算
所得把握は自己申告ベースマイナンバー連携で自動反映を検討

背景には、国税庁と社会保険機関のデータ連携強化(DX化)があります。
いわば、「税と社会保険の情報がつながる時代」への移行です。


4. 影響を受けるのはどんな人?

金融所得の保険料反映は、すべての人に同じ影響を及ぼすわけではありません。

主に影響を受けるのは次の層です。

  • 高齢者世帯(65歳以上)
     → 介護保険料や後期高齢者医療保険料の算定に、配当・譲渡益が反映される可能性。
  • 退職後に投資収入で生活する人
     → 年金+投資益の合算で、保険料が上がる可能性。
  • 富裕層・FIRE層
     → 「給与ゼロ・投資収入のみ」でも保険料負担が増える可能性。

一方で、年金や給与中心の中間層は大きな影響を受けにくいとみられています。


5. 公平性の回復か、それとも「取りすぎ」か

政府の狙いは「公平な負担」。
しかし、FPや税理士の間では次のような懸念もあります。

  • 投資促進政策(新NISA)と逆行しないか?
     → 投資収益が保険料増につながれば、投資意欲が低下するおそれ。
  • 二重課税に近い構造にならないか?
     → 金融所得にはすでに20%の税がかかっており、保険料でも負担すれば「税+社会保険料」の二重負担になる。

一方で、現役世代からは

「投資で利益を上げている高齢者の保険料が軽いのは不公平」
との意見も根強く、公平性と成長促進のバランスが焦点となります。


6. FP視点での対応アドバイス

制度改正が進むと、投資収益が保険料に直結する時代になります。
そのため、ライフプラン設計では次のような視点が重要になります。

  • 所得の分散化:給与・年金・投資をバランスよく組み合わせる
  • 長期NISAなど非課税枠の活用:非課税なら保険料算定にも影響しない可能性が高い
  • 確定申告の戦略的活用:控除の活用で実質負担を軽減
  • 老後の取り崩し計画:年金+運用益の合算で社会保険料が増えないよう調整

「税と社会保障を切り離して考える時代」は終わりつつあります。
これからは、税・保険・資産運用を一体で設計する力が問われます。


7. まとめ

金融所得と社会保障負担の一体化は、
「所得の全体像に応じた公平な負担」への大きな一歩です。

ただし、それは同時に、

「すべての所得が可視化され、社会全体で分かち合う時代」
への転換でもあります。

投資が生活の一部になった今、
この見直しは“税だけでなく社会保障も変える”改革の象徴と言えるでしょう。


出典:2025年10月21日 日本経済新聞朝刊「消費税『食品2年ゼロ』視野」/厚生労働省『社会保障制度改革に関する検討資料(2025年版)』/財務省『税と社会保険の情報連携構想(2025年度)』


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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