厚生労働省は、金融取引で得た所得(配当・利子・株式売却益など)を医療保険料や窓口負担の算定に反映させる検討を始めました。これまで確定申告をしない人には金融所得が反映されず、高齢者を中心に「負担が過度に軽くなる」という問題が指摘されてきました。
今回の見直し議論は、社会保障制度の公平性をどう確保するか、そして現役世代の負担をどう抑えるかという大きなテーマにつながっています。この記事では、制度見直しの背景と論点をわかりやすく整理します。
金融所得が「保険料の算定対象外」になってきた理由
医療保険(国民健康保険・後期高齢者医療制度など)の保険料は、給与所得や年金所得などを基準に算定されます。
一方、上場株式の配当や社債の利子などは、確定申告をしない限り、自治体は把握できません。
- 申告した人:金融所得が翌年度の保険料に反映
- 申告しない人:金融所得は保険料算定に含まれない
この仕組みのため、金融資産が多い人ほど保険料・窓口負担が軽くなるケースがあり、「所得捕捉の不公平」が以前から問題視されてきました。
特に後期高齢者医療制度(75歳以上)では、確定申告が不要な金融所得が多く、対象となる金融所得の約9割が保険料算定に入っていないとされています。これが制度の公平性を揺るがす要因となっていました。
なぜ今、見直しが始まったのか
背景には次のような社会構造の変化があります。
- 高齢者の金融資産が増えている
配当・利子収入が多い層ほど、申告しなければ保険料が低い状態が続いていた。 - 高齢者医療費の増加
後期高齢者医療制度の財政負担が拡大し、現役世代の保険料負担の重さが課題。 - 現役世代の「仕送り負担」の限界
社会保障全体で、働く世代が支える構造が耐えきれなくなりつつある。
こうした中で、金融所得を適切に把握することで「負担能力に応じた負担」を実現し、現役世代の保険料を抑制する狙いがあります。
法定調書データの活用案とは
今回の議論で厚労省が示したポイントが、証券会社などが国税庁へ提出する税務調書の活用です。
- 証券会社 → 国税庁
- 国税庁 → 市町村(データ提供)
- 市町村 → 医療保険料に反映
この仕組みを実現するため、厚労省は
「法定調書データベース(仮称)」の新設案
を提示しています。
これが実現すれば、確定申告の有無にかかわらず、金融所得を自治体が把握できるようになります。
制度改正が実現した場合の影響
制度が導入されると、次のような影響が考えられます。
1. 金融所得の多い高齢者の保険料が上昇
特に後期高齢者医療制度で影響が大きくなる可能性があります。
2. 現役世代の負担抑制につながる
高齢者側の負担能力に応じた保険料負担が進むことで、現役世代の「仕送り」の負担増を抑える効果が期待されます。
3. 申告不要制度の見直しにつながる可能性
現行の「申告不要」で金融所得が捕捉されない仕組みは、制度全体の公平性を損ねているという議論が強まっています。今後は申告不要制度や源泉分離課税の見直し議論に波及する可能性があります。
政治の動きと今後のスケジュール
- 2025年11月:自民党と日本維新の会の協議会で、反映に向けて一致
- 年内:厚労省が一定の方向性を取りまとめる予定
- 2026年度以降:制度改正の具体化が論点に
金融所得の捕捉は税・社会保障の根幹に関わるため、大きな制度再設計となる可能性があります。
結論
金融所得を医療保険料に反映する仕組みは、これまで長く指摘されてきた所得捕捉の不公平を是正する重要な一歩です。
特に後期高齢者の金融所得の把握は、現役世代の負担軽減と持続可能な医療制度の構築に直結します。
ただし、制度改正は国民生活への影響が大きく、負担増の議論だけが先行すると反発も起こりやすい領域です。金融所得の把握と同時に、負担のバランス、改革の透明性を確保することが求められます。
今後の審議会の動向を丁寧に追いながら、制度の実現可能性と影響を引き続き整理していきます。
出典
・日本経済新聞「金融所得、保険料に反映 厚労省検討」(2025年11月14日)
・厚生労働省 社会保障審議会関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

