FRBの利下げ再開と世界の金融政策
9月17日、米連邦準備理事会(FRB)は0.25%の利下げを決断しました。実に9カ月ぶりの金融緩和再開です。背景には、雇用市場の減速や景気減速懸念があります。カナダ、インドネシアなど他国の中央銀行も同日に利下げを実施し、主要国は「利下げラッシュ」とも言える状況にあります。
SMBC日興証券の試算によれば、先進国の平均政策金利は2024年8月の4.2%台から、すでに3%程度まで低下しています。
しかし、金融緩和の「アクセル」とトランプ前大統領が主導する関税引き上げという「ブレーキ」が併存する構図は、世界経済に複雑な影響をもたらしています。
緩和マネーは実体経済に届かない
利下げによって資金の流れは潤沢ですが、その多くは実体経済に流れ込まず、金融市場に滞留しています。
- MMF(マネー・マーケット・ファンド)の残高は7.3兆ドルと、コロナ危機前の2019年(3.6兆ドル)から倍増。
- ヘッジファンドの資産残高も3.2兆ドルから4.7兆ドルに拡大。
企業も設備投資を控える傾向が強まっています。米デロイトの予測では、米国の設備投資は2025年0.8%増、2026年0.5%増と低空飛行。中国でも1~7月の民間投資が前年同期比1.5%減少し、欧州でも固定資本形成が落ち込んでいます。
景気の先行きが見えにくい中で、企業は手元資金を抱え込む代わりにMMFや株式市場、さらにはビットコインに資金を投じる流れが強まっています。皮肉にも、実体経済が停滞するほど金融市場に資金が流れ込み、市場が加熱するという構図です。
株高・金高・ビットコイン高 ― 過剰流動性の行き場
緩和期待により世界の金融市場は熱を帯びています。
- 米国株、日本株、欧州株は最高値圏に。
- 韓国、台湾、インドネシアなど新興国市場でも株価が過去最高を更新。
- 金価格(ニューヨーク金先物)も16日に最高値を更新。
- 米国債やビットコインまで買われ、リスク資産・安全資産の双方が値上がりする異例の事態。
通常なら逆相関にあるはずの金と株が同時に上昇しているのは、資金があふれ出し行き場を失っている証拠です。
関税というブレーキが雇用と投資を直撃
FRBは利下げ理由として「雇用の下振れリスク」を挙げていますが、問題の根源は金利ではなく関税です。
- 米家具大手「アットホーム」は、関税による調達コスト増を理由に破綻。
- 日本の自動車部品大手マレリホールディングスも、トランプ関税が再建を阻む要因になったとされています。
- ILO(国際労働機関)は、2025年の世界の雇用見通しを700万人分下方修正。
米国の平均実行関税率は2.4%から16.4%へ上昇し、輸入額3.2兆ドルに対して単純計算で年間4500億ドルもの負担増となります。これは企業活動のコストを大きく押し上げ、投資や雇用を冷やす要因です。
今後の展望 ― 実体経済への波及がなければ
FRBは年内さらに2回の利下げを検討しています。しかし、金融市場にマネーが滞留するだけでは景気減速を止められません。金融緩和の効果を発揮させるには、
- 設備投資や雇用に資金を振り向ける政策
- サプライチェーンや関税の不透明感を減らす国際協調が不可欠です。
トランプ政権は日本から5500億ドル、欧州から6000億ドルの投資を呼び込み国内産業のてこ入れを図ろうとしていますが、期待感だけで資金が集まるわけではありません。肝心なのは「実体経済の成長期待」をいかに高められるかです。
まとめ
世界は今、緩和マネーが溢れている一方で、実体経済は投資も雇用も伸び悩むという「逆転現象」に直面しています。関税というブレーキが残る限り、利下げというアクセルだけでは景気を押し上げられません。
投資家にとっても、株や金、ビットコインの高騰は資金流入の裏返しにすぎず、実体経済が伴わなければ将来の収益率低下や市場の冷え込みを招くリスクがあります。
いま求められているのは、短期的な金融緩和ではなく、長期的な成長の土台を固める政策です。
📌参考:日本経済新聞(2025年9月18日付「金融市場の歪み増幅」)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

