金価格上昇の「第2幕」―米国の奇策が相場を揺さぶる

FP
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9月9日、ニューヨーク金先物価格は一時1トロイオンス3700ドルを突破し、史上最高値を更新しました。インフレ懸念や米国の利下げ観測、地政学的リスクといった従来の要因に加え、新たな注目材料が浮上しています。
それが米国による「ゴールドリザーブ(金備蓄)の再評価」という奇策です。もし実行されれば、金価格のさらなる急上昇を後押しする可能性があります。

流動性相場の裏側

現在の株式・金市場の上昇は「景気拡大」を反映したものではなく、金融緩和による流動性が支えている面が大きいのが特徴です。
米国では9月17日のFOMCで0.25%の利下げが実施され、FRBはパウエル議長の下でハト派姿勢を鮮明にしました。トランプ政権の利下げ圧力も強まっており、市場は一段の金融緩和を織り込んでいます。

ただし、米国の雇用統計は悪化傾向にあり、インフレ率はなお3%前後で高止まり。つまり「景気減速と物価高」の同時進行=スタグフレーションのリスクが強まっているのです。この状況での利下げは景気刺激というより、むしろ金価格上昇の要因として作用します。

脱ドル依存の潮流

金への資金流入を後押しするもう一つの要因が、国際政治の不安定化です。
上海協力機構(SCO)に代表される中ロ主導の枠組み、欧州と中国の接近など、各国で「脱ドル依存」の動きが進んでいます。米国への不信感が高まるほど、代替資産としての金の存在感が増す構造です。

とくに新興国では、外貨準備の多様化の一環として金の購入を増やす動きが鮮明になっており、国際的な金需要は底堅いとみられます。

米国「ゴールドリザーブ再評価」という奇策

ここに新たに浮上したのが、米国財務省によるゴールドリザーブ再評価の可能性です。
米国は2億6150万トロイオンスもの金を保有していますが、簿価は1トロイオンス=約42ドルと、市場価格(3600ドル超)と比べて大きく乖離しています。

もしこれを市場価格水準に引き上げれば、1兆ドル近い含み益が発生し、財政赤字の穴埋めや新たなドル発行の担保に使えるのです。
これは単なる会計上の数字遊びではなく、実際にドル供給を拡大させる効果を持つため、金市場にとっては強い追い風となります。

さらに理論的には、米政府が市場価格以上(例えば5000ドル)で再評価することも可能です。これは財源を魔法のように膨らませる一方で、ドルの信認を大きく揺るがすリスクを伴います。

歴史が示す警告

米国は1934年にも金の再評価を行った歴史があります。当時、金価格を20ドル台から35ドルへ引き上げたことは、事実上ドルの切り下げを意味し、ドル価値は4割下落しました。
現代は金本位制ではありませんが、同じ仕組みが働けばドル安を誘発し、金価格の急騰につながりかねません。

投資家への含意

株式市場は高値圏にあり、調整リスクが高まっています。その一方で、金価格はむしろ上振れリスクが強まっているのが現状です。

「金を持たざるリスク」が一段と高まったともいえます。現物金だけでなく、投資信託やETFなど多様な手段で金にアクセスできる現代では、ポートフォリオの中で金の役割を再確認する好機かもしれません。


おわりに

金価格は単なる投資商品の値動きではなく、世界経済や国際政治の不安定さを映す鏡でもあります。米国の奇策ともいえる「ゴールドリザーブ再評価」は、その鏡に新しい波紋を広げる可能性を秘めています。


(参考:日本経済電子版 2025年9月20日記事)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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