配偶者居住権は本当に使いやすい制度か――理論と実務の距離

税理士
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配偶者居住権は、残された配偶者の居住を守るために創設された制度です。

制度趣旨は明確です。
住まいの確保を最優先にしつつ、相続財産の分割を柔軟にすること。

しかし、制度が創設されたからといって、それが実務上「使いやすい」とは限りません。

本稿では、配偶者居住権の使いやすさを、制度趣旨と実務運用の両面から検証します。


制度の理論的メリット

配偶者居住権の理論的メリットは明確です。

・配偶者が住み続けられる
・自宅所有権を子に承継できる
・金融資産を配偶者に厚く配分できる

特に、自宅評価額が高い場合に、相続分の調整手段として機能します。

生活保障と財産分割を両立させる制度設計としては合理的です。


実務上の利用件数

一方で、制度創設以降の利用件数は限定的です。

理由は単純ではありませんが、次の点が挙げられます。

・制度理解の難しさ
・評価計算の複雑さ
・将来の処分制限
・相続人間の合意形成の困難さ

理論と実務の間に距離が存在します。


評価の複雑性

配偶者居住権の評価は、建物の耐用年数や配偶者の平均余命などを基礎に算定されます。

計算式自体は定められていますが、直感的に理解しにくい構造です。

評価額の妥当性に対する心理的な不安も生じやすいといえます。

実務では、単純明快な分割が選好される傾向があります。


流動性の問題

配偶者居住権は譲渡が制限される権利です。

将来的に住み替えを希望する場合、権利関係の整理が必要になります。

所有権と居住権が分離されていることは、処分の柔軟性を下げる可能性があります。

高齢期の生活設計において、流動性は重要な要素です。


相続人間の調整

制度の活用には、相続人全員の理解と合意が不可欠です。

所有権を取得する相続人にとっては、利用制限付きの不動産を取得することになります。

心理的な不公平感が生じる場合もあります。

制度が存在しても、合意形成が難しければ利用は進みません。


税務上の視点

税務上は、配偶者居住権の評価額が抑えられるため、配偶者の取得財産額が圧縮される場合があります。

しかし、税額だけを目的とした活用は慎重であるべきです。

二次相続まで視野に入れた総合設計が不可欠です。

税額最小化と生活安定は必ずしも一致しません。


活用が適するケース

配偶者居住権が比較的使いやすいのは、

・自宅の評価額が高い
・金融資産が不足している
・配偶者が終身居住を希望している
・住み替え予定がない

といったケースです。

一方で、将来的な資産流動性を重視する場合には慎重な検討が必要です。


制度評価

配偶者居住権は、理念としては合理的です。

しかし、実務上の使いやすさは限定的といえます。

制度が複雑であること、流動性が制約されること、心理的調整が必要であること。

これらが普及を抑制する要因となっています。

制度は存在するだけでは足りません。利用可能性の高さが重要です。


結論

配偶者居住権は、生活保障を重視する制度として意義があります。

しかし、すべての家庭にとって使いやすい制度とは限りません。

制度の活用は、税額だけでなく、

・生活設計
・流動性
・家族関係
・二次相続

を総合的に考慮して判断すべきです。

制度の存在と実務の現実は必ずしも一致しません。

老後設計の中で、本当に必要かどうかを冷静に見極めることが重要です。


参考

・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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