都市部の税源流出問題を考える

税理士
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(ふるさと納税を考えるシリーズ 第5回)

ふるさと納税は「地方創生の切り札」として始まりました。
地方の自治体に財源を振り向ける仕組みは一定の成果を挙げていますが、その裏で「都市部の税源流出」という課題が深刻化しています。今回は、特に 都市部に住む私たちの生活にどのような影響があるのか を掘り下げます。


都市部からの巨額流出

東京都、横浜市、大阪市などの大都市圏では、ふるさと納税による税収流出が年間数百億円規模に達しています。
例えば東京都だけで、毎年数百億円単位の住民税が他の自治体へ流れている状況です。

これはつまり、「都市部の住民が払った税金」が地元の公共サービスに使われず、遠く離れた自治体に移転していることを意味します。


公共サービスに及ぶ影響

都市部は人口が集中し、生活インフラや社会保障に大きな支出が必要です。
しかし税収流出が続けば、次のような影響が懸念されます。

  • 子育て支援の遅れ
    本来なら増設できるはずの保育園や学童保育が、予算不足で整備が遅れる。待機児童の解消が進まない要因の一つとなります。
  • 医療・介護サービスの圧迫
    高齢化が進む都市部では、病院や介護施設の需要が急増しています。流出分がなければ充実できる医療体制が、十分に確保できないリスクがあります。
  • インフラ整備の停滞
    老朽化する道路・上下水道・公共交通のメンテナンスに支障が出れば、生活の安全や利便性に直結します。

つまり「都市部の住民サービス低下」という形で、私たち自身の生活に影響してくるのです。


制度のゆがみ

ふるさと納税は「出身地や応援したい地域を支援する」という理念で始まりました。
しかし現実には「返礼品目的での寄付」が多く、都市部の住民がこぞって利用すると、結果的に 自分が住んでいる街のサービスを削る ことになっています。

都市部に住む人が「返礼品で得をした」と感じても、その裏で「地元の保育園整備が遅れる」「医療サービスが縮小する」という形で“損”をしている可能性があるのです。


見直しの方向性

この不公平感を是正するため、今後は次のような制度見直しが必要とされています。

  • 都市部への補填制度
    流出した分を交付金などで部分的に還元する仕組み。
  • 返礼品競争の抑制
    「豪華な返礼品」で釣るのではなく、「寄付の使い道」を重視する方向にシフト。
  • 地方税制全体の改革
    都市部と地方の財源格差を是正する抜本的な見直しが不可欠。

まとめ

ふるさと納税は「地方を応援する」制度であると同時に、都市部の住民にとっては「地元サービスを弱める」可能性を持つ制度でもあります。
保育園・医療・インフラといった私たちの生活に直結する分野への影響を意識しながら、公平で持続可能な仕組みへと見直していく必要があります。

👉 次回(最終回)は「ふるさと納税のこれから ― 制度の持続可能性と利用者の心得」をお届けします。


(参考 納税通信 2025年8月25日号)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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