1. 新築偏重政策の限界
戦後の住宅難を克服した日本は、1960年代以降「持ち家政策」に舵を切り、新築住宅の取得を強力に後押ししてきました。住宅ローン控除や固定資産税の軽減など、税制優遇の大半は「新築」を対象としてきました。
この政策は高度成長期には効果的でした。人口は増え、都市への流入も進み、新築需要は尽きなかったからです。
しかし2025年の今、少子高齢化・人口減少が進む中で、「新築だけを優遇する政策」は現実と乖離しています。着工戸数は最盛期の半分以下に減り、空き家は増加の一途。新築中心の支援では「買える人」しか救えない状況となっています。
2. 空き家900万戸の衝撃
総務省「住宅・土地統計調査」によれば、2023年時点で日本の空き家は約900万戸。この30年間で倍増しました。
空き家が増える要因は、
- 少子高齢化と人口減少
- 相続時に使われない住宅の放置
- 都市部への人口集中による地方住宅の余剰
空き家は治安や防災のリスクとなるだけでなく、都市部の住宅価格高騰とのアンバランスを一層際立たせます。
本来なら「余っている住宅を有効活用する」ことが、住宅政策の中心になるべき時代に入っています。
3. 中古住宅とリフォーム市場の可能性
日本の住宅投資に占めるリフォームの割合は、欧米と比べて極端に低いと言われています。理由は、
- 新築志向が強く「中古=価値が低い」という意識
- 政策面で新築に比べて優遇が少ない
- 流通市場の整備が不十分
しかし、もし中古住宅に適切なリフォームを施して価値を維持・向上させる政策支援があれば、住宅市場全体の活性化が見込めます。
例えば、
- リフォーム費用に対する税額控除
- 中古住宅購入+リフォームの一体型ローン制度
- 空き家の改修を条件とした補助金
といった施策を強化することで、「安価に、かつ質の高い住宅に住める」環境を広げられます。
4. アフォーダブル住宅の導入
東京都はすでに動き出しています。
ニューヨークやロンドンの仕組みを参考に、総額200億円規模のファンドを立ち上げ、子育て世帯などを対象に市場価格より安い賃貸住宅を供給する計画を検討中です。
- 空き家の活用も想定
- 民間デベロッパーと連携
- 規制緩和(容積率緩和など)を組み合わせて供給を誘導
ただし、規模はまだ限定的で「市場全体に与えるインパクトは小さい」との指摘もあります。国全体の仕組みに広げてこそ、本格的な効果が期待できます。
5. 公営住宅・家賃補助という選択肢
海外の事例(前回の記事参照)に比べると、日本は「公営住宅」や「家賃補助」が非常に弱いです。
- 日本の公営住宅比率は住宅総数の4%前後
- 全国的な家賃補助制度は存在しない
一方で、国や自治体の財政は厳しく、新たな公営住宅建設や恒久的な家賃補助は簡単には進められません。
だからこそ、既存ストック(中古・空き家)の活用と、限定的かつ効果的な補助策の組み合わせが現実的な解決策になります。
6. 「持ち家神話」からの転換
日本では長らく「持ち家=成功」「賃貸=不安定」という価値観が支配的でした。
親世代の持ち家がセーフティーネットの役割を果たしてきたのも事実です。
しかし、これからは 「持ち家」か「賃貸」かではなく、ライフステージに応じた多様な住まい方 をどう選ぶかが重要になります。
- 若い世代:柔軟に動ける賃貸+家賃補助
- 子育て世代:中古住宅+リフォーム支援
- 高齢世代:住み替えやコンパクト住宅、サービス付き住宅
これらを政策で後押しすれば、「普通の人でも安心して住める社会」に近づけます。
7. まとめ
ここまで3回にわたって「遠のく夢のマイホーム」をテーマに見てきました。
- 第1回:住宅価格の高騰で「年収5倍モデル」が崩壊
- 第2回:海外はアフォーダブル住宅や家賃補助、公営住宅で対応
- 第3回:日本は新築偏重政策を見直し、中古・空き家活用へ転換すべき
住宅は「人生で最大の買い物」から「社会全体のインフラ」へ。
国や自治体が多様な選択肢を用意し、私たち一人ひとりも「持ち家神話」に縛られない価値観を持つことが、これからの時代には必要です。
「夢のマイホーム」は消えたのではありません。
その形が、新築一戸建てや分譲マンションという狭い枠を超えて、多様に広がろうとしているのです。
参考文献
- 日本経済新聞「遠のく夢のマイホーム マンションは年収の10倍、持ち家政策に転換期」(2025年9月13日)
- 総務省「住宅・土地統計調査」
- 東京都「アフォーダブル住宅政策検討資料」
- 不動産経済研究所「新築マンション市場動向」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
