通達改正とパブリック・コメント ― 租税法律主義から考える評価通達の位置づけ

税理士
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貸付用不動産の評価適正化をめぐり、令和8年度税制改正の成立後、評価通達の改正案が公表され、パブリック・コメントを経て施行されるとの見通しが示されています。近年、行政手続の透明化の観点からパブリック・コメント制度は重視されていますが、通達という法形式との関係を考えたとき、その位置づけは必ずしも自明ではありません。

本稿では、評価通達の法的性格を踏まえ、通達改正とパブリック・コメント制度の関係について整理します。


通達とは何か ― 法的性格の確認

国家行政組織法第14条第2項は、各省大臣や庁の長官が、その所掌事務について、所管機関や職員に対し訓令・通達を発することができると定めています。

つまり通達とは、行政機関内部における「職務命令」です。評価通達であれば、「財産の時価はこの方法で評価せよ」という国税庁長官から職員への指示にあたります。

さらに国家公務員法第98条第1項は、職員が法令および上司の命令に忠実に従う義務を負うことを定めています。通達は内部規範であり、国税庁職員にとっては拘束力を持つ職務上の命令です。

ここで重要なのは、通達それ自体は国民を直接拘束する法規命令ではないという点です。あくまで行政内部の命令にとどまります。


「時価」との適合性は誰が判断するのか

相続税法は課税標準を「時価」と定めています。評価通達が定める評価方法は、この「時価」に適合していなければなりません。

しかし、その適合性を最終的に判断するのは、裁判所です。評価通達に基づく課税処分が争われた場合、裁判官がその評価方法が「客観的交換価値」に合致しているかを判断します。

したがって、通達改正にあたって本来最も重視すべきなのは、
・法令との整合性
・既存判例との整合性
・租税法律主義との適合性
です。

この観点からすれば、通達改正は法的合理性の問題であり、世論や意見公募によって決まる性質のものではないともいえます。


パブリック・コメントの意義と限界

パブリック・コメント制度は、行政手続法に基づき、命令等の制定・改廃にあたり意見を募集する制度です。目的は透明性と民主性の確保にあります。

しかし、通達は本質的に行政内部の命令です。さらに、今回の貸付用不動産の評価適正化は、与党税制調査会の大綱に基づくものであり、立法政策としての方向性がすでに示されています。

このような場合、パブリック・コメントを実施しても、立法意思に反する内容へ大きく修正されることは想定しにくいのが実情です。実際、コメント前後で内容に大きな差異がないケースも少なくありません。

制度的には民主的手続を踏んでいるものの、実質的な影響力は限定的であるとの指摘が生じるのも理解できます。


租税法律主義との関係

租税法律主義は、課税要件および課税効果は法律によらなければならないとする原則です。行政庁は立法当局の定めた法律に従って課税を行う義務を負います。

もし税制改正大綱において方向性が明確に示され、それに基づいて法律が整備されるのであれば、通達改正はその枠内で行われるべきものです。

そうすると、通達改正の本質は「法律の適正な執行手段の整備」にあります。民主的な政策形成過程というより、合法性の原則に基づく法技術的作業と位置づけることもできます。

この視点に立てば、通達改正にパブリック・コメントを付すこと自体が理論的にどのような意味を持つのか、改めて検討する余地があるといえるでしょう。


実務への示唆

実務家として重要なのは、パブリック・コメントの有無よりも、最終的に示される評価方法が
・法令に適合しているか
・判例理論と整合しているか
・租税回避防止の観点で合理性があるか
を見極めることです。

特に貸付用不動産評価は、相続税実務に大きな影響を与えます。評価方法の変更は、節税スキームの再構築や資産承継戦略の見直しに直結します。

制度論の議論とは別に、実務対応の準備を冷静に進めることが求められます。


結論

通達は行政内部の命令であり、その適法性は最終的に裁判所によって判断されます。通達改正において最も重視されるべきは、法令および判例との整合性であり、租税法律主義との適合性です。

パブリック・コメント制度は行政の透明性確保に一定の意義を持ちますが、通達の法的性格を踏まえると、その実質的役割については慎重な検討が必要です。

貸付用不動産の評価適正化は、単なる評価技術の問題ではなく、行政と立法、そして司法の役割分担を改めて考えさせる論点でもあります。制度の建付けを理解することが、実務判断の精度を高めることにつながります。


参考

・品川芳宣「続・傍流の正論~税相を斬る 第80回/パブリック・コメント」税のしるべ 2026年2月23日
・国家行政組織法
・国家公務員法
・相続税法
・行政手続法

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