資産運用というと、「長期・分散・積立」という言葉が定番の考え方として語られます。しかし、同じ運用手法を一生続けてよいのかと問われると、必ずしもそうとは言えません。
人生のある時点を境に、資産運用の目的そのものが非連続的に変化する局面があります。この変化は、物理学でいう相転移に例えることができます。相転移とは、条件の変化によって性質が一気に変わる現象です。資産運用においても、ある境界を越えた瞬間に、考え方や戦略を切り替える必要が生じます。
相転移が起きると運用目的は変わる
資産運用は「資産を増やすこと」が目的だと考えられがちですが、それはあくまで特定の局面における目的にすぎません。
たとえば、企業年金では長年にわたり積立不足の状態が続いてきました。この段階では、将来の給付に必要な水準に近づけるため、ある程度のリスクを取ってでも資産を増やすことが合理的でした。
しかし、積立比率が100%に達すると状況は一変します。そこから先は、資産をさらに増やすことよりも、100%以上の状態を維持することが重要になります。運用の主眼は「成長」から「維持・安定」へと切り替わります。
このように、同じ資産でも、置かれた状況によって最適な運用行動は大きく異なります。
個人の資産運用にも相転移は起こる
相転移は、企業年金だけの話ではありません。個人の資産運用でも、同様の現象が起こります。
もっとも分かりやすいのが、退職によって労働収入がなくなるタイミングです。現役時代は、給与収入を生活費に充て、余剰資金を資産運用に回すことができます。仮に運用成績が一時的に悪化しても、将来の収入で取り戻す余地があります。
一方、退職後は事情がまったく異なります。資産から生活費を取り崩しながら暮らす段階では、資産の減少がそのまま生活の不安につながります。資金は流入から流出へと転じ、運用環境は根本的に変わります。
この局面で、現役時代と同じリスク水準の運用を続けることは、必ずしも適切とは言えません。
山を登る運用と、山を下る運用
資産形成期の運用は、いわば山を登る局面です。多少の上下動があっても、長期的には上を目指すことができます。
しかし、取り崩し期の運用は山を下る局面です。足を踏み外せば、大きなダメージを受ける可能性があります。この段階では、リターンの最大化よりも、資産寿命をいかに延ばすかが重要になります。
同じ金融商品であっても、使い方や位置づけは変わります。ここに、運用方法を切り替えるべき相転移のポイントがあります。
人生の節目ごとに訪れる相転移
退職以外にも、結婚、子どもの誕生、住宅取得、介護の開始など、人生の節目は数多く存在します。これらはすべて、家計構造やリスク許容度を変化させる要因です。
重要なのは、「一度決めた資産配分を守り続けること」ではありません。その時点のライフステージに応じて、運用の前提条件を見直すことです。
資産運用において柔軟性を失うことは、相転移を無視することと同義です。
結論
資産運用は連続的に変化するものだと思われがちですが、実際には非連続的な転換点が存在します。
その転換点を意識せず、過去に有効だった運用方法を惰性で続けることは、大きなリスクになりかねません。
資産を増やす局面から、資産を守り、使いながら管理する局面へ。人生の相転移に合わせて、資産運用も更新していくことが、長期的な安心につながります。
参考
・日本経済新聞「資産運用の相転移」
・企業年金・個人のライフサイクルにおける資産運用に関する一般的な考え方
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

