令和8年度税制改正では、貸付用不動産の評価見直しを通じて、資産課税の方向性が明確に示されました。それは、評価差を利用した節税の余地を縮小し、実態に近い価格で課税するという流れです。
この改正は単なる一項目の修正ではなく、今後の税制の動きを示す「シグナル」ともいえます。では、資産課税はこの先どこまで強化されていくのでしょうか。本稿では、現行制度の延長線上にある変化を整理し、今後の方向性を考察します。
第一の方向性:時価主義の徹底
今回の改正で最も明確になったのは、時価主義の強化です。
これまでの相続税評価は、
- 路線価
- 固定資産税評価額
- 各種補正
といった「簡便性を重視した評価」が中心でした。
しかし今後は、
- 実際の取引価格に近づける
- 取得価額や市場情報を反映する
といった方向に進む可能性が高いと考えられます。
将来的には、
- 不動産の評価のさらなる実勢価格への接近
- データベースを活用した評価の高度化
なども視野に入るでしょう。
これは、
評価の簡便性よりも課税の公平性を優先する流れ
といえます。
第二の方向性:スキーム対応型から原則課税へ
これまでの資産課税は、
- 問題が生じる
- 個別に規制する
という「後追い型」の対応が中心でした。
今回の改正はこれとは異なり、
- 短期取得
- 金融商品化
といった手法全体を広くカバーする設計となっています。
この流れが続けば、
- 特定スキームを個別に封じるのではなく
- 原則として実態に基づく課税を行う
という方向に移行していく可能性があります。
つまり、
「抜け道をふさぐ税制」から「抜け道が生まれにくい税制」へ
という変化です。
第三の方向性:資産移転そのものへの課税強化
資産課税の本質は、世代間の資産移転に対する課税です。
現在の制度は、
- 相続時精算課税
- 贈与税の非課税枠
- 各種特例
などにより、一定の調整が行われています。
しかし今後は、
- 生前贈与と相続の一体化の強化
- 贈与・相続を通じた一貫課税
といった方向がさらに進む可能性があります。
既に、
- 生前贈与加算の期間延長
などの見直しが進んでおり、この流れは継続すると考えられます。
これは、
資産移転のタイミングによる課税差を縮小する動き
といえます。
第四の方向性:富裕層へのターゲティング強化
資産課税の強化は、すべての納税者に一律に及ぶとは限りません。
むしろ現実には、
- 高額資産
- 不動産・金融資産の多額保有
といった層に対して重点的に影響が及ぶ可能性があります。
背景には、
- 格差拡大への対応
- 税負担の公平性確保
といった政策的要請があります。
そのため、
- 評価の厳格化
- 特例の見直し
- 情報把握の高度化
などは、富裕層ほど影響が大きくなると考えられます。
第五の方向性:金融資産とのバランス調整
これまでの資産課税は、
- 不動産は評価が低くなりやすい
- 金融資産は時価で課税
という構造でした。
今回の改正は、このバランスを見直す動きともいえます。
将来的には、
- 資産の種類による課税差の縮小
- 資産全体での公平な課税
がより重視される可能性があります。
これは、
「どの資産を持つか」で税負担が大きく変わる状況の是正
という方向です。
未来のリスクと実務への影響
こうした流れを踏まえると、実務上のリスクは次のように整理できます。
- 評価差を前提とした対策が機能しなくなる
- 制度変更によって想定外の課税が生じる
- 長期的な資産設計が求められる
特に重要なのは、
「今有効な対策が将来も有効とは限らない」
という点です。
税制は段階的に変化するため、単年度の最適解ではなく、将来を見据えた設計が不可欠となります。
結論
資産課税は今後、
- 時価主義の強化
- 実態重視の課税
- 資産移転の一体課税
- 富裕層への重点的対応
という方向に進む可能性が高いと考えられます。
これは、単なる増税というよりも、
課税の歪みを是正し、制度の公平性を高める動き
と整理できます。
今後の資産承継においては、
- 短期的な節税ではなく長期的設計
- 制度の変化を前提とした柔軟な対応
が不可欠となります。
税制改正は単なる負担増ではなく、
資産の持ち方・承継の仕方を問い直す契機
といえるでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年3月9日
・令和8年度税制改正大綱
