資産寿命を延ばす取り崩し術〜定額方式 vs 定率方式、あなたに合うのはどっち?〜

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「老後の生活資金をどのように取り崩していけばいいのか?」。
これは、定年退職後に直面する誰もが抱く悩みです。

年金収入だけでは生活費が足りず、貯めた資産を少しずつ取り崩しながら生活している人は少なくありません。たとえば、高松市に住む68歳の男性はこう語ります。

「趣味はシュノーケルで、ときどき海外にも行くんです。だから年190万円ほどの年金だけでは足りず、運用資産を少しずつ取り崩しています。でも株価が下がると、このまま資産が尽きてしまわないか心配なんです」

この男性は、約3000万円の資産を投資信託や日本株で運用しながら、年100万円ほどを取り崩しています。こうした相談は近年急増しているとファイナンシャルプランナーの方も指摘しています。

実際に「資産の取り崩し方」を工夫することで、資産寿命を大きく延ばせる可能性があるのです。この記事では、代表的な定額方式定率方式の違いを整理しながら、どんな考え方が資産を守ることにつながるのかを考えてみます。


定額方式の特徴:計画を立てやすい安心感

最も分かりやすいのは「毎月10万円ずつ取り崩す」といった定額方式です。
家計管理をするうえで「今月も10万円」と決まっている安心感は大きく、生活の見通しを立てやすい点が魅力です。

では実際に2000万円を25年間かけて取り崩すとどうなるでしょうか。
もし運用をせず、現金だけを月10万円ずつ使っていくと、82歳ごろで資産は尽きてしまいます。

しかし、もし世界株式に投資を続けながら取り崩していくとどうでしょうか。
過去70年から2025年までのデータを使ってシミュレーションすると、取り崩し終了時の資産は平均で3860万円。つまり、25年間で3000万円を引き出したにもかかわらず、資産が増えていたケースが多かったのです。

株式市場が長期的に年率約8%で成長してきたことが背景にあります。特に好調だった1974年10月から1999年9月の25年間では、取り崩しを続けながら最終的に1億2000万円以上に資産が膨らんだという結果も出ています。

しかしその逆に、1998年8月から取り崩しを始めたケースでは、ITバブル崩壊やリーマンショックが重なり、90歳時点で資産は2700万円のマイナスになるという厳しい結果も示されています。

定額方式の最大の弱点は、株価が低迷している時期にも同じ金額を取り崩す必要があるため、多くの口数を売却してしまい、後半の回復局面で利益を享受しにくいことにあります。


定率方式の特徴:資産を枯渇させにくい仕組み

一方、注目されているのが定率方式です。
これは「資産残高の○%を取り崩す」という方法で、例えば毎月0.34%(年率換算で約4%)を取り崩すといった形になります。

定率方式のメリットは、株価が下落した時には取り崩し額が自動的に減るため、資産を長く保ちやすいことです。
過去のシミュレーションでも、最も悪い時期で取り崩しを始めても資産はゼロにならず、最低でも1750万円が残りました。平均すると25年間で4720万円の資産を保ったまま90歳を迎えられたという結果もあります。

ただし、デメリットもあります。
毎月の取り崩し額が一定ではないため、生活設計が立てにくいのです。
実際に最悪のケースでは、月に2万6000円しか取り崩せなかったこともありました。これでは生活費が足りないと感じる方も多いでしょう。

そこで工夫として紹介されているのが、現預金を一定割合保有して、取り崩し額が少ない時期に補う方法です。また、株価が高い時期に取り崩した余剰分を貯めておき、低迷期に備えるという戦略も現実的です。


分散投資という選択肢

「株式だけでは不安」という方には、株と債券を組み合わせたバランス型投資信託の利用も一つの手です。

たとえば、国内外の株と債券を4資産で分散投資し、年率4%で取り崩すシミュレーションを行った場合、取り崩し額が最も少ない月でも4万1000円程度にとどまりました。株式だけの場合より変動が小さく、安定した取り崩しが可能になります。

ただし、リターンの大きさではやはり世界株の方が優勢です。
イボットソン・アソシエイツ・ジャパンのシミュレーションによると「株式比率が高いと短期的には枯渇しやすいが、数十年単位ではむしろ枯渇確率が減る」という結果が出ています。

つまり「変動を抑えて安心をとるのか、それとも長期的なリターンを狙って株式比率を高めるのか」は、本人の性格や生活状況によって異なるということです。


実践のポイント

ここまでを整理すると、取り崩しを考える際の実践ポイントは次の4つです。

  1. 定額方式と定率方式の特徴を理解する
     安心感を優先するなら定額、資産寿命を延ばしたいなら定率。
  2. 現預金をうまく組み合わせる
     取り崩し額が少ない時期に備えて現金を用意しておくことが大切。
  3. 取り崩し開始時の資産規模を大きくしておく
     例えば3000万円あれば、月10万円の定額取り崩しでも資産が枯渇しにくくなる。
  4. 分散投資を活用する
     株と債券、国内外に分散することで資産寿命を延ばす効果が期待できる。

まとめ:あなたに合った「マイ・ルール」を作ろう

老後資産の取り崩しには「これが正解」という唯一の答えはありません。
定額方式には計画性と安心感があり、定率方式には資産を長持ちさせる仕組みがあります。分散投資を組み合わせれば、変動を抑えつつ運用を続けることも可能です。

大切なのは、自分の資産状況や性格、生活スタイルに合った「マイ・ルール」を見つけること。
試算ツールやシミュレーションサイトを活用しながら、定額・定率・分散投資のバランスを自分なりに調整していくことが、安心した老後につながります。

あなたは「毎月きっちり派」でしょうか?
それとも「柔軟に取り崩す派」でしょうか?

ぜひ一度、数字に基づいたシミュレーションを試しながら、自分に合った取り崩し方を考えてみてください。


📌 参考:
日本経済新聞朝刊(2025年10月4日付)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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