銅・リチウム・ニッケル・レアアースなど、脱炭素時代を支える素材の価格が世界的に高止まりしています。この“素材インフレ”は、企業の製造コストを押し上げ、最終製品の価格にじわじわと転嫁され始めています。
本稿では、資源価格の上昇が どの分野に、どのように波及するのか を、電気料金・住宅・自動車・家電といった生活に身近な領域に絞って整理します。
1. 電気料金への影響——再エネ・送電網のコスト上昇がじわじわ効く
(1)再生可能エネルギーの設備コスト
太陽光パネル、風力タービン、蓄電池の価格には、
- アルミ
- 銅
- シリコン
- レアアース
などが影響します。
資源価格が高止まりすると、発電設備の建設コストが上昇し、結果的に電力料金に反映されやすくなります。
(2)送電網の強化にも“銅”が必要
脱炭素の進展に伴い、再エネを送るために送電網の増設も進んでいます。
送電ケーブルには大量の銅が必要であり、銅価格の高騰は送電設備の建設費を押し上げます。
IEAは、脱炭素を進めるためには 「送電網の世界投資額を2030年までに倍増させる必要がある」 と指摘しています。
当然、その投資コストは最終的に電気料金へと反映されていきます。
2. 住宅設備・新築・リフォームの価格上昇
(1)住宅建設で使う金属が高騰
住宅の設備と構造には、電線・給湯設備・配管・断熱材など、実は多くの金属が使われています。
主な影響
- 銅:電線、給湯器、エアコン配線、分電盤
- アルミ:サッシ、配管類、太陽光架台
- 鉄鋼:構造材、建材
これらの価格上昇は、新築価格・リフォーム価格双方に波及します。
(2)給湯器・エアコンなどの設備価格
とくに、
- エコキュート
- ガス給湯器
- エアコン
は金属使用量が多く、近年価格上昇が目立っています。
(3)住宅用蓄電池のコスト
住宅用蓄電池に使われるリチウム価格の変動も無視できません。
価格は一度下落はしたものの、EV需要との競合が激しく、長期でみると上昇リスクが高いとされます。
3. 自動車(EV・ハイブリッド)への影響
(1)EVのコスト構造は「素材価格に依存」
EV価格の約30~40%を占めるのが バッテリーコスト です。
したがって、
- リチウム
- ニッケル
- コバルト
の価格が上昇すると、EV本体価格に直結します。
メーカーはコスト吸収のために
- LFPバッテリーへの移行
- リサイクル素材の活用
などを進めていますが、素材インフレの影響は続きます。
(2)銅使用量も増加
EVはガソリン車と比べて 約2〜3倍の銅 を使用します。
銅価格の高騰はモーター・インバーター・配線コストの増加を通じて、車両価格を押し上げます。
(3)結果として“車両価格の高止まり”が続く
世界的にはEVの販売価格は短期的に上下しつつも、長期では素材価格の影響を受けて高止まりしやすい傾向にあります。
4. 家電製品への影響——銅とアルミが静かに効いてくる
(1)冷蔵庫・エアコン・洗濯機
モーター・配線・熱交換器など、家電製品には金属が多く使われます。
特にエアコンは銅使用量が多い代表的な製品で、銅価格の上昇は確実に製造コストを押し上げます。
(2)パソコン・サーバー機器
AI普及に伴いサーバー需要が増えると、銅とレアアースが大量に使われ、電子機器にも影響が及びます。
(3)価格上昇は“緩やかに”進む
金属価格がすぐに家電価格へ反映されるわけではなく、メーカーの在庫や調達契約によってタイムラグが生じます。
しかし、中期的には素材価格の高止まりが家電価格にも波及します。
5. 企業側の動き——価格転嫁・製品設計見直し・調達改革
企業は素材インフレに対して次のような対策を取っています。
- 価格転嫁(値上げ)
- 製品設計の見直し(軽量化・使用量削減)
- 調達先の多様化
- 長期契約やヘッジの活用
- リサイクル素材(都市鉱山)の利用拡大
ただし、脱炭素に必要な金属は代替が難しいため、素材コストの増加が“構造的な負担”として残る可能性が高いといえます。
6. 家計にとって何が重要か
素材価格上昇は最終的に生活に波及します。
家計が意識しておくべき点は次の通りです。
- 今後の家電・住宅設備価格の上昇リスク
- EVの購入タイミングは補助金・価格動向と連動
- 電気料金の上昇圧力
- 補助金・減税制度の活用
- 資源価格を踏まえた中長期の家計管理
特に大きな買い物(住宅、車)は素材価格の影響を大きく受けるため、政策と価格動向を見ながらの判断が必要です。
結論
脱炭素と電化が加速する現代では、素材価格の上昇が生活の広い領域に影響を及ぼすようになりました。電気料金・住宅・自動車・家電など、日々の生活に密接に関わる分野で“じわりとした値上げ”が進む可能性があります。
企業は価格転嫁と調達改革で対応していますが、脱炭素に必要な金属は代替が難しく、中期的な素材価格の高止まりは避けにくい状況です。家計にとっても、この“素材インフレ”を前提にした生活設計が重要になります。次回(第6回)は、企業と家計が取り得る具体的な戦略と備えについて解説します。
出典
・国際エネルギー機関(IEA)
・世界銀行 Commodity Markets
・主要業界団体レポート(電力・自動車・住宅設備)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
