賃金制度と働き方の変化 「生活を保障する」賃金制度はなぜ揺らいでいるのか

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日本企業の賃金制度は、長い間「生活を保障する」ことを大きな目的として設計されてきました。年功的に賃金が上がり、多少の配置転換があっても生活水準が急激に変わらない。この仕組みは、戦後日本の安定成長を支え、多くの人に安心感をもたらしてきました。
しかし近年、この前提そのものが揺らいでいます。ジョブ型雇用や役割基準の人事制度が注目され、賃金の決め方や上がり方を見直す企業が増えています。賃金制度の変化は、単なる人事制度の話にとどまりません。私たちの働き方やキャリア、さらには生活の成り立ち方そのものに直結する問題です。

賃金制度は「価値観」を映す仕組み

賃金制度は、人事制度の一部でありながら、企業の価値観を最も端的に表す仕組みです。企業が労働者の何を評価し、どのような人材を求めているのかが、賃金の決め方に現れます。
賃金の水準だけでなく、どのように上がるのか、どの程度安定しているのかは、労働者の公平感やモチベーションに大きな影響を与えます。そしてそれは、どのような働き方が望ましいとされるのか、どのようなキャリアを描くべきなのかという行動選択にもつながります。

メンバーシップ型雇用と生活保障

日本企業に広く普及してきたメンバーシップ型雇用では、職能資格制度が賃金制度の中核を担ってきました。賃金は担当している職務そのものではなく、個人の能力に基づいて決められます。
配置転換や職種変更があっても賃金が直ちに下がらないため、企業は人材を柔軟に配置し、労働者は長期的に経験を積むことができました。能力は経験の蓄積とともに高まると考えられ、賃金の上昇は年功的になります。
この仕組みは、雇用の安定と賃金の安定を通じて、労働者の生活を保障する役割を果たしてきました。

生活保障と引き換えの「拘束性」

一方で、この制度は強い拘束性を内包しています。長期雇用を前提とする社会規範のもとで、企業の指揮命令権は広く認められ、転勤や配置転換、長時間労働が正社員の標準とされてきました。
生活を保障される代わりに、働く場所や時間、業務内容について個人の裁量は限定される。この構造は、結果としてジェンダー不平等を生みやすい側面も持っていました。家庭責任を担うことが多い人ほど、こうした働き方に適応しにくかったからです。

人口減少社会で問われる制度の持続性

少子高齢化と人口減少が進む現在、従来型の賃金制度と働き方が本当に持続可能なのかが問われています。人材確保が難しくなる中で、無制限に近い拘束性を前提とした制度は、企業にとっても労働者にとっても負担が大きくなっています。
こうした背景から、職務を基準とするジョブ型や、職務と能力を組み合わせた役割基準の賃金制度に関心が集まっています。賃金制度の改革は、単なる効率化ではなく、生活保障のあり方をどう再設計するかという問題でもあります。

結論

かつての賃金制度は、長期雇用と引き換えに生活を安定させることを重視してきました。しかし、その安定は、強い拘束性とセットで成り立っていた面があります。
これからの賃金制度改革で問われているのは、生活を保障するという目的を捨てることではありません。どのような形で生活の安定を確保し、個人が選択できる働き方やキャリアを広げていくのか。そのバランスをどう取るのかが、今後の制度設計の核心だといえます。

参考

日本経済新聞「賃金制度と働き方の変化(1)『生活を保障する』制度の変容」
埼玉大学准教授 禿あや美(2025年12月19日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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