近年、賃上げのニュースが相次いでいますが、その恩恵が均等に行き渡っているわけではありません。若年層や大企業では賃金が伸びる一方で、中高年層や中小企業では伸びが鈍く、ばらつきも大きくなっています。
内閣府が公表した日本経済リポート(いわゆるミニ経済白書)は、この賃金格差の実態と、その背景にある構造的な課題を浮き彫りにしました。本稿では、同リポートの分析を手がかりに、賃金が伸びる層と伸びにくい層の違い、そして今後の日本経済に求められる対応について整理します。
若年層と大企業に集中する賃上げ
ミニ白書によると、20〜30代の若年層では賃金が比較的安定して上昇しています。少子化が進む中で、企業が人材確保のために初任給や若手層の処遇を引き上げていることが背景にあります。
一方、40〜50代の中高年層では賃金の伸びが鈍く、高所得層ほど上昇幅が大きいという傾向がみられます。年齢そのものではなく、担っている職務や役割、企業内でのポジションによって賃金動向が分かれている状況です。
企業規模による差も顕著です。大企業では賃上げが進む一方、日本で働く人の約7割が所属する中小企業では、賃上げができる企業とできない企業に二極化が進んでいます。価格転嫁の難しさや生産性の違いが、そのまま賃金格差につながっています。
賃上げと個人消費の関係
国内総生産(GDP)の約半分を占めるのは個人消費です。賃金が一部の層だけで上昇しても、消費全体の底上げにはつながりにくい構造があります。
ミニ白書は、持続的な経済成長のためには、賃上げの裾野を広げる必要があると指摘しています。特定の年齢層や企業規模に偏った賃上げでは、日本経済全体の成長力は高まりません。
能力は高いが、生産性は低いという矛盾
経済協力開発機構(OECD)の成人の能力調査では、日本は主要国の中でも上位に位置しています。それにもかかわらず、時間当たりの労働生産性はG7の中で最下位です。
この「能力は高いが、生産性が低い」という矛盾は、日本経済の長年の課題といえます。ミニ白書は、その要因の一つとして、リスキリング(学び直し)を巡る企業と労働者の認識のズレを挙げています。
企業と労働者のリスキリングのズレ
企業が労働者に求める能力開発の内容を見ると、「協調性・協働力」や「職種に特有の実践的スキル」が中心です。長期雇用を前提に、企業内で通用するスキルを重視する姿勢がうかがえます。
一方、労働者側が重視するのは「語学力」や「専門的なITスキル」など、社外でも通用する能力です。このズレが解消されないままでは、学び直しが生産性向上につながらず、賃金も継続的に上がらないとミニ白書は指摘しています。
M&Aによる生産性向上という選択肢
ミニ白書は、企業の合併・買収(M&A)が生産性向上に与える効果についても分析しています。
2010〜2022年度のデータでは、非製造業において、合併を行った企業は営業利益率や労働生産性、ROAが上昇する傾向が確認されました。製造業では、工場の統廃合などの効果が表れるまでに時間がかかるものの、中長期的な改善が期待されるとされています。
中小企業にとって、単独での成長が難しい場合、M&Aは生産性向上と賃上げの現実的な手段となり得ます。そのためには、企業価値の評価基準の整備や、統合プロセスのノウハウ共有を官民で進めることが重要だとまとめられています。
結論
Z世代や大企業で賃金が伸びている現象は、日本経済の前向きな側面である一方、世代間・企業規模間の格差が拡大していることも示しています。
賃上げを一過性のものに終わらせず、経済全体に波及させるためには、リスキリングの方向性を企業と労働者で共有し、生産性向上につなげる視点が不可欠です。加えて、中小企業においては、M&Aを含めた構造改革を現実的な選択肢として捉える必要があります。
個人・企業・政府がそれぞれの立場で生産性向上に取り組むことが、日本全体の持続的な賃上げへの道筋となります。
参考
・日本経済新聞「Z世代・大企業で賃金伸び 内閣府分析、中高年・中小は上昇ばらつき」
・内閣府「日本経済リポート(ミニ経済白書)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

