家賃が高騰する中で、多くの家庭が直面するのは「賃貸を続けるべきか、それとも購入すべきか」という難しい選択です。
東京23区の平均家賃は21万円を超え、可処分所得の34%を占めています。30万円近い家賃を支払う世帯も珍しくありません。こうした状況のなかで、家賃を払い続けるべきなのか、ローンを組んで購入に踏み切るべきなのか──。
今回は、「賃貸 vs 購入」という二者択一を、ライフプランの観点から多面的に考えていきます。
1. 賃貸のメリットとデメリット
メリット
- 柔軟性が高い
転勤やライフスタイルの変化に応じて住み替えが容易。 - 初期費用が抑えられる
頭金や諸費用が不要で、引っ越し時の経済的負担が軽い。 - 修繕リスクが少ない
建物や設備の修繕は大家の負担。大規模修繕費などを心配する必要がない。
デメリット
- 「掛け捨て」で資産が残らない
月20〜30万円を払っても、自分の資産にはならない。 - 老後の負担が続く
年金生活になっても家賃は一生発生する。 - 家賃上昇リスク
更新や募集時に相場が上がれば、そのまま負担増につながる。
2. 購入のメリットとデメリット
メリット
- 資産として残る
ローンを完済すれば、老後の住居費は固定資産税や管理費程度に抑えられる。 - 金利の安定性
固定金利を選べば返済額は変わらない。インフレ局面では相対的に有利になる。 - 資産価値上昇の可能性
人気エリアの物件は値上がりする場合もあり、将来の売却益が期待できる。
デメリット
- 初期費用が大きい
頭金、仲介手数料、登記費用などで数百万円単位が必要。 - 流動性が低い
転勤や家族構成の変化で売却・住み替えが必要になると、すぐに動けない。 - 修繕・管理の負担
マンションなら修繕積立金、一戸建てなら自己負担での修繕が不可避。
3. 都心志向か、郊外シフトか
家賃高騰のなかで問われるのは、「どこに住むか」です。
- 都心にこだわる場合
利便性は高いが、家賃・価格は高止まり。購入する場合も7,000万円〜1億円規模が当たり前になりつつある。 - 郊外・準都心に移る場合
通勤時間は伸びるが、家賃や購入価格は2〜3割程度抑えられる。駅近や再開発エリアなら生活利便性も確保できる。 - 二拠点生活という選択肢
平日は利便性重視の都心、週末は郊外や地方に拠点を持つスタイルも広がりつつある。ただしコスト負担は増える。
4. 家族構成・ライフイベントで変わる判断
住まいの選択は「いつ、どんなライフイベントを迎えるか」で答えが変わります。
- 子育て期
教育環境や通学利便性が最優先。持ち家を購入して安定を求める世帯も多い。 - 独身・DINKS期
柔軟性を優先し、賃貸を選ぶメリットが大きい。 - 定年期
賃貸だと老後も支払いが続くため、早めに持ち家を確保しておきたい。
FP相談の現場でも、「子どもが小学校に入学する前に持ち家を購入する」というタイミングを選ぶ家庭が目立ちます。逆に独身期や子育て後は「賃貸で十分」という選択もあります。
5. 賃貸と購入をどう比較するか?
単純に「家賃とローン返済額を比べる」だけでは不十分です。重要なのはライフプラン全体での収支シミュレーションです。
- 賃貸なら:老後まで家賃を払い続けた場合の総額
- 購入なら:ローン返済・諸費用・修繕費を含めた総負担額
さらに、教育費や老後資金への影響を考慮する必要があります。
例えば30年間で家賃25万円を払い続ければ総額9,000万円。購入なら7,000〜8,000万円のローンと修繕費。ただし購入は資産が残る一方、賃貸は柔軟性という価値を残す──それぞれの「コストとリターン」を冷静に比較することが求められます。
6. FP的視点からのアドバイス
- 家賃・住宅費は手取りの25〜30%以内
これを超える場合は家計全体のバランスが崩れるリスクが高い。 - 教育費ピーク期と住宅費を重ねない
大学進学期と住宅ローン返済が重なると、家計は極端に厳しくなる。 - 老後資金とのバランスを意識する
60代以降も家賃を払い続けるか、ローンを完済して住居費を抑えるか。老後の生活設計に直結する。
まとめ:住まいは「人生戦略」の一部
「賃貸か購入か」という議論に正解はありません。
大切なのは、自分や家族のライフプランと価値観に即して最適解を選ぶことです。
- 都心の利便性を優先し、高い家賃を許容するか
- 郊外で余裕を確保し、教育・老後資金に回すか
- 高額でも購入し、将来の資産形成を目指すか
家賃高騰の時代だからこそ、「どこに住むか」は単なる居住選択ではなく、教育・老後・人生設計を含めたトータルな戦略として考える必要があります。
(参考:日本経済電子版 2025年9月4日記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
