貸倒損失の認定リスク ― 「回収不能」とは何か― 調査官の指摘 vs 会社の言い分⑥

税理士
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貸倒損失は、損金算入の要件が厳格に定められている科目です。
「実際に回収不能かどうか」の判断を誤ると、損金否認や修正申告に直結します。
令和7年度 全国統一研修会では、担保付き債権・長期未回収・引当金の取扱いなど、調査官との見解が分かれる実例が紹介されました。
本稿ではその3つを整理します。


① 担保付き債権の貸倒れ ― 「担保がある限り回収可能」か?

事例
A社は取引先B社の経営悪化により、売掛金500万円のうち300万円を回収不能と判断し、貸倒損失に計上。
ただし、B社所有の機械設備にはA社の担保権が設定されていました。

調査官の指摘
担保が存在する限り、債権の全額が回収不能とは認められない
担保処分後の残余金額が確定して初めて貸倒処理が可能。

会社の主張
担保機械は老朽化しており、処分見込みが乏しい。実質的には回収不能。

結論:調査官の指摘が正しい。

担保・保証が存在する債権は、担保価値や保証履行可能性を考慮して評価する必要あり。
担保処分の結果が判明するまで損金算入不可。

実務ポイント

  • 担保物の売却・処分・保証履行が確定して初めて貸倒認定。
  • 「担保あり=回収不能でない」が原則。
  • 例外は、担保価値が著しく低下しており、その証拠を提示できる場合のみ。

② 長期取引停止後の債権 ― 「取引停止後何年で貸倒?」の誤解

事例
A社は取引先C社との取引を3年前に停止。
その後、C社は実質的に休眠状態にあり、連絡も取れないため、残高200万円を貸倒損失に計上。

調査官の指摘
C社は法人登記が存続しており、破産・解散等の法的整理はされていない。
「取引停止のみ」では回収不能と認められない。

会社の主張
代表者の所在不明・資産なしの状況で、実質的に回収不能。
これ以上の交渉余地もない。

結論:調査官の指摘が正しい。

「取引停止後○年経過」だけでは足りず、
弁済不能・債務免除・取立不能の事実が客観的に確認できることが必要(法基通9-6-1)。

実務ポイント

  • 貸倒損失は「回収不能を客観的に証明」できる資料が必要。
  • 相手の登記、差押履歴、所在不明届などの記録を保管。
  • 「年数経過」ではなく「実質的な取立不能」の証拠が重要。

③ 貸倒損失を否認された場合 ― 引当金での対応は可能?

事例
A社は、取引先D社の未回収金を貸倒損失に計上したが、税務調査で否認。
「引当金で処理すべきだった」と指摘を受けました。

調査官の指摘
貸倒損失として認められない場合でも、貸倒引当金を計上できるのは翌期以降
否認された期での再評価は認められない。

会社の主張
実態として回収不能が明らかであり、せめて引当金として損金算入したい。

結論:調査官の指摘が正しい。

否認された貸倒損失を同一年度内で引当金に振替えることは不可
翌期以降、実績に基づく計算で改めて引当金を設定する。

実務ポイント

  • 貸倒損失と貸倒引当金は別概念。
  • 否認時に「振替処理」で救済はできない。
  • 翌期の引当金計上のため、調査官指摘の理由を文書化しておく。

🧾 まとめ ― 貸倒認定の3条件を押さえる

判断基準損金算入可否認リスク
担保・保証処分・履行が確定した時点担保が存続・保証人が健在
取引停止・所在不明法的整理・実質的破産・所在不明証明あり単なる取引停止・音信不通
引当金との関係翌期以降に計上可否認期内の振替処理不可

💬 税理士の視点からの教訓

  • 「回収不能の証拠」が最も重要。感覚的判断は危険。
  • 登記簿・官報・破産公告・内容証明郵便など、客観資料を残す。
  • 貸倒損失を急ぐよりも、「引当金で段階的に評価損を認める」方が安全なケースもある。
  • 調査官は「貸倒処理が恣意的かどうか」を注視している。

📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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