貸倒損失は、損金算入の要件が厳格に定められている科目です。
「実際に回収不能かどうか」の判断を誤ると、損金否認や修正申告に直結します。
令和7年度 全国統一研修会では、担保付き債権・長期未回収・引当金の取扱いなど、調査官との見解が分かれる実例が紹介されました。
本稿ではその3つを整理します。
① 担保付き債権の貸倒れ ― 「担保がある限り回収可能」か?
事例
A社は取引先B社の経営悪化により、売掛金500万円のうち300万円を回収不能と判断し、貸倒損失に計上。
ただし、B社所有の機械設備にはA社の担保権が設定されていました。
調査官の指摘
担保が存在する限り、債権の全額が回収不能とは認められない。
担保処分後の残余金額が確定して初めて貸倒処理が可能。
会社の主張
担保機械は老朽化しており、処分見込みが乏しい。実質的には回収不能。
結論:調査官の指摘が正しい。
担保・保証が存在する債権は、担保価値や保証履行可能性を考慮して評価する必要あり。
担保処分の結果が判明するまで損金算入不可。
実務ポイント
- 担保物の売却・処分・保証履行が確定して初めて貸倒認定。
- 「担保あり=回収不能でない」が原則。
- 例外は、担保価値が著しく低下しており、その証拠を提示できる場合のみ。
② 長期取引停止後の債権 ― 「取引停止後何年で貸倒?」の誤解
事例
A社は取引先C社との取引を3年前に停止。
その後、C社は実質的に休眠状態にあり、連絡も取れないため、残高200万円を貸倒損失に計上。
調査官の指摘
C社は法人登記が存続しており、破産・解散等の法的整理はされていない。
「取引停止のみ」では回収不能と認められない。
会社の主張
代表者の所在不明・資産なしの状況で、実質的に回収不能。
これ以上の交渉余地もない。
結論:調査官の指摘が正しい。
「取引停止後○年経過」だけでは足りず、
弁済不能・債務免除・取立不能の事実が客観的に確認できることが必要(法基通9-6-1)。
実務ポイント
- 貸倒損失は「回収不能を客観的に証明」できる資料が必要。
- 相手の登記、差押履歴、所在不明届などの記録を保管。
- 「年数経過」ではなく「実質的な取立不能」の証拠が重要。
③ 貸倒損失を否認された場合 ― 引当金での対応は可能?
事例
A社は、取引先D社の未回収金を貸倒損失に計上したが、税務調査で否認。
「引当金で処理すべきだった」と指摘を受けました。
調査官の指摘
貸倒損失として認められない場合でも、貸倒引当金を計上できるのは翌期以降。
否認された期での再評価は認められない。
会社の主張
実態として回収不能が明らかであり、せめて引当金として損金算入したい。
結論:調査官の指摘が正しい。
否認された貸倒損失を同一年度内で引当金に振替えることは不可。
翌期以降、実績に基づく計算で改めて引当金を設定する。
実務ポイント
- 貸倒損失と貸倒引当金は別概念。
- 否認時に「振替処理」で救済はできない。
- 翌期の引当金計上のため、調査官指摘の理由を文書化しておく。
🧾 まとめ ― 貸倒認定の3条件を押さえる
| 判断基準 | 損金算入可 | 否認リスク |
|---|---|---|
| 担保・保証 | 処分・履行が確定した時点 | 担保が存続・保証人が健在 |
| 取引停止・所在不明 | 法的整理・実質的破産・所在不明証明あり | 単なる取引停止・音信不通 |
| 引当金との関係 | 翌期以降に計上可 | 否認期内の振替処理不可 |
💬 税理士の視点からの教訓
- 「回収不能の証拠」が最も重要。感覚的判断は危険。
- 登記簿・官報・破産公告・内容証明郵便など、客観資料を残す。
- 貸倒損失を急ぐよりも、「引当金で段階的に評価損を認める」方が安全なケースもある。
- 調査官は「貸倒処理が恣意的かどうか」を注視している。
📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
