貸付用不動産の評価見直しは何を変えるのか――相続税評価の新局面

税理士
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令和8年度税制改正大綱では、「相続税等の財産評価の適正化」が掲げられました。その中でも特に注目されるのが、貸付用不動産の評価方法の見直しです。

従来、貸付用不動産は通達評価により大幅に圧縮された評価額となるケースがあり、市場価格との乖離が問題視されてきました。近年は借入を活用した賃貸マンション取得や、不動産小口化商品を用いた相続・贈与対策が広く行われています。

今回の改正は、こうした実態を踏まえた対応といえますが、制度設計の方向性や今後の影響については慎重に整理する必要があります。

本稿では、貸付用不動産評価見直しの内容と背景、そして実務上の意味を整理します。


なぜ「評価の適正化」が問題になったのか

相続税は時価主義を原則としています。しかし実務では、財産評価基本通達に基づく画一的な評価方法が用いられます。

問題となったのは、取得直後の貸付用不動産が、相続時には通達評価により大幅に減額されるケースです。

例えば、21億円の借入で取得した一棟賃貸マンションが、相続開始時には約4億円強の評価となり、相続税額が大きく圧縮された事例が紹介されています。

また、不動産小口化商品(信託受益権)を3,000万円で購入し、そのまま贈与すると、通達評価では数百万円程度に評価され、贈与税が極端に低額になる事例もありました。しかも、受贈者は取得価額に近い価格で売却可能という構造です。

形式上は通達評価に従った適法な計算であっても、実質的には市場価格との差が大きく、課税の公平性が損なわれているとの指摘が強まりました。


今回の見直し内容

改正大綱では、大きく2つの見直しが示されています。

① 取得後5年以内の貸付用不動産

被相続人が課税時期前5年以内に取得または新築した一定の貸付用不動産については、「課税時期における通常の取引価額」により評価することとされます。

もっとも、実務上の簡便性を考慮し、取得価額を基礎とし地価変動等を加味した額の80%で評価できる仕組みも示されています。

これは、取得直後に通達評価で急激に圧縮されることを防ぐ趣旨と考えられます。

② 不動産特定共同事業・信託受益権

不動産小口化商品などについては、取得時期にかかわらず、通常の取引価額で評価する方向が示されています。

事業者が示す処分価格や買取価格、定期報告書の価格等を参酌することが想定されています。

これは、実質的に換金可能価額が明確である商品について、通達評価による大幅な圧縮を認めないという考え方です。


評価通達6項との関係

これまで類似の事案では、財産評価基本通達6項が適用されることがありました。

6項は、「通達による評価が著しく不適当な場合」に個別に評価を見直す規定です。しかし、これは例外規定であり、納税者の予測可能性を害するという問題が指摘されてきました。

最高裁令和4年4月19日判決では、6項適用が適法とされましたが、最高裁調査官解説でも「通達整備が望ましい」との指摘がありました。

今回の改正は、6項に頼らず、あらかじめ制度として明文化することで予測可能性を確保しようとする動きと評価できます。


実務への影響

今回の見直しは、いわゆる「駆け込み型」不動産節税に大きな影響を与える可能性があります。

特に以下の点が重要です。

・相続直前の不動産取得戦略は再検討が必要
・小口化商品を用いた贈与スキームは効果が限定される
・金融機関による相続対策融資モデルにも影響が及ぶ可能性

一方で、長期保有の不動産や実質的な賃貸事業についてまで否定する趣旨ではありません。

重要なのは、「評価差を利用した形式的節税」と「実体ある資産運用」の線引きが、より明確になるという点です。


制度としての論点

もっとも、いくつかの論点も残ります。

・通常の取引価額の算定方法の透明性
・80%評価の合理性
・地価下落局面での取扱い
・既存取得物件との均衡

評価を市場価格に近づける方向は公平性の観点から理解できますが、評価実務の安定性とのバランスをどう取るかが今後の課題になります。

相続税は「一度きりの課税」であり、評価のブレは納税者に大きな影響を与えます。制度の明確性と公平性の両立が求められます。


結論

貸付用不動産の評価見直しは、評価通達6項問題を制度面から整理し直す動きといえます。

市場価格との著しい乖離を是正するという方向性自体は理解できるものです。しかし、評価方法の具体化や適用範囲次第では、新たな実務上の混乱が生じる可能性もあります。

相続税の評価は単なる技術論ではありません。課税の公平、公平な競争環境、そして納税者の予測可能性をどう確保するかという根本問題に関わります。

今後の政省令・通達整備の内容を慎重に見極める必要があります。


参考

・2026年02月09日 税のしるべ 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第78回/貸付用不動産の評価

・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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