東京税理士会が開催された「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」は、実務の現場で起こる“調査官と会社の見解のズレ”を題材に、法人税の重要論点を整理する研修でした。
本研修では、減価償却・修繕費・役員給与・退職金・貸倒損失・短期前払費用など、実務で頻出するテーマが取り上げられています。
今回はその中から、特に現場で誤解の多い「減価償却関係」の事例を紹介します。
① 美術品は減価償却できるのか? ―「100万円ライン」の誤解
A社は本社受付に飾るため、若手画家の絵画を80万円で購入。器具備品として減価償却していました。
しかし調査官は、「美術品は非減価償却資産だ」と指摘。A社は「100万円未満なので減価償却できる」と反論しました。
結論:A社の主張が正しい。
非減価償却資産に該当するのは「歴史的価値・希少性のある古美術品」または「取得価額100万円以上の美術品」。
取得価額100万円未満で、価値が経年減少するものは減価償却資産として扱えます。
実務ポイント
- 受付やロビー用の絵画も、取得価額が100万円未満なら「器具備品(耐用年数8年)」で償却可能。
- ただし、倉庫で長期保管して展示されていない場合は「事業の用に供していない」とされるリスクあり。
② 借地の整地費用は損金? ―「借地権」扱いの落とし穴
A社は借地に整地工事(地ならし・土盛り)を行い、青空駐車場に利用。その整地費用と仲介手数料を損金処理しました。
調査官は「借地権の取得価額として資産計上すべき」と指摘。
結論:調査官の指摘が正しい。
借地契約に際して支出した整地費用や仲介手数料は、借地権の取得価額に含める(法基通7-3-8)。
実務ポイント
- たとえ地代のみの契約でも、地盤改良・整地・造成費用は“土地改良のための支出”と判断される場合がある。
- 将来の返還条件を含む契約内容を確認の上、会計処理を慎重に。
③ 稼働休止中の機械 ― 減価償却してよいか?
不況により10台のうち4台を休止しているA社。
「メンテナンスを続け、いつでも稼働できる状態」として減価償却を継続していましたが、調査官は「事業の用に供していない」と指摘。
結論:A社の主張が正しい。
「いつでも稼働可能な状態」で維持されている休止資産は、事業の用に供しているものとみなされる(法基通7-1-3)。
実務ポイント
- “休止中”でも「廃棄・売却予定でない」「保守が行われている」場合は減価償却可能。
- 実態が「長期放置」「保守なし」であれば否認リスクが高い。
④ ワンルームマンションのカーテン交換 ― 少額減価償却の適用は?
20室分のカーテン取替費用80万円を全額損金処理したA社。
調査官は「10万円超なので資産計上すべき」と指摘。
結論:A社の主張が正しい。
1室ごとの単位で4万円と少額であるため、「少額減価償却資産」として損金算入可。
(国税庁質疑応答事例より)
実務ポイント
- 少額資産判定は「資産単位」で行う。集合住宅など複数ユニットの場合、「室単位」「機能単位」で判定。
- 実態に即した単位の設定が重要。
⑤ 中小企業者等の特別償却 ―「親会社の資本金」に要注意
A社(資本金3,000万円)は資本金8,000万円のB社の100%子会社。
しかしB社は資本金10億円のC社の完全子会社。A社は「中小企業者等の特別償却」を適用しました。
結論:調査官の指摘が正しい。
親会社が「大規模法人(資本金1億円超)」の完全支配下にある法人は、中小企業者等に該当しません(措法42の6)。
実務ポイント
- 中小企業税制の適用判定では資本金だけでなく支配関係を確認。
- グループ構造を図示して判断すること。
✍️ まとめ ― “会計処理の一歩先”を考える
今回の研修資料は、調査官の実際の指摘に基づき、「なぜその処理が認められないのか」を解説する貴重な教材です。
単なる条文理解ではなく、“経済実態と形式のバランス”を学ぶ絶好の機会といえます。
実務家へのヒント
- 金額基準だけでなく「利用実態」や「契約内容」を必ず確認。
- 修繕費・資本的支出・少額資産の線引きは、税務調査で最も指摘が多い分野。
- 社内経理担当者向けの教育にも活用できる。
📚出典
東京税理士協同組合教育情報事業配布資料「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

