2020年代後半、日本の観光は大きな転換期を迎えています。
「人を呼ぶ観光」から、「地域と地球を守る観光」へ。
観光需要の回復とともに、宿泊税や観光税の役割も変化しています。
そこに共通して見えるキーワードが、“サステナビリティ(持続可能性)”です。
■ “稼ぐ観光”から“残す観光”へ
これまでの観光政策は「経済効果」に重きを置いてきました。
しかし、訪日外国人の急増やオーバーツーリズム問題を経て、
今や“数”ではなく“質”を問う時代に入っています。
観光客が増えれば、宿泊税収や飲食収入も増えますが、
同時に地域の環境負荷・交通混雑・生活コスト上昇も高まります。
こうした状況の中で注目されているのが、
観光を「環境保全の財源」としても活用する仕組み――
すなわち、エコツーリズム課税(環境目的税)の考え方です。
■ 日本各地で広がる「環境目的の観光税」
🏔 北海道ニセコ町
2024年に宿泊税(定率0.5%)を導入。
観光インフラ整備だけでなく、
森林保全や再エネ導入費用に充てる仕組みを整備。
“滑る人が、守る人になる”をスローガンに、
スキーリゾートと自然保護を両立する先進モデルとなっています。
🌸 京都市
2026年3月から宿泊税の上限を1万円に引き上げ予定。
増収分は、観光混雑の抑制策(交通・ゴミ・騒音)に充当。
「住民と観光客の共生」をテーマに、観光を“地域維持の手段”と位置づけています。
🌊 沖縄県(検討中)
県としての「観光環境税」の導入を議論中。
サンゴ礁保護・漂着ゴミ処理・観光地インフラ維持を財源で支える構想。
観光客1人あたりの環境コストを可視化し、
「楽しむ責任」を共有する方向性が打ち出されています。
■ 海外ではすでに“エコ観光税”が常識に
- バリ島(インドネシア):2024年から「観光税」1人15万ルピア(約1,500円)を徴収。環境保全・文化遺産保護に充当。
- スイス:宿泊税の一部を「自然保護基金」に拠出。登山ルートの維持管理に使われる。
- スペイン・マヨルカ島:観光税を海洋保全と公共交通補助に活用。
つまり、観光税は「入場料」ではなく、地域のサステナビリティ投資として機能しているのです。
■ ESG時代の観光税 ― 税の“見える化”が信頼を生む
環境目的の課税が広がるほど、求められるのは透明性と説明責任です。
「何に使われているか」を明確に示すことで、観光客の理解と納得が得られます。
たとえば、
- 宿泊税を「〇〇温泉の源泉保護」や「自然公園整備費」に充てる
- Webで税の使途をグラフィック化し、寄付型課税のように公開する
- 観光事業者自身が「環境貢献報告書」を提出する
こうした取り組みは、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の一部として評価される流れにあります。
観光と税の“共創”が、まさに次の時代の地域ブランドを形づくるのです。
■ 宿泊税の未来形 ― 「グリーンツーリズム課税」へ
今後、日本の観光税制は次の段階に進むと考えられます。
- 定率+環境目的のハイブリッド型
宿泊料金の一定割合を課税し、うち一部を環境目的に充当。 - 地域循環型課税
地元での自然保全・文化継承・環境教育などに再投資。 - 企業連携型の“グリーン観光基金”
宿泊税と企業寄付を組み合わせ、再エネ・交通・廃棄物削減を支援。
つまり、宿泊税が「地域SDGs財源」として再定義される未来です。
観光は環境負荷ではなく、環境を守る力になる。
この発想の転換が、観光立国・日本の真価を問う時代に入っています。
🧭 まとめ
- 観光税・宿泊税は「環境保全型」へ進化中
- ニセコ・京都・沖縄が国内先行モデル
- 税の透明性とESG視点が信頼を左右する
- 将来的には「グリーンツーリズム課税」への転換が焦点
出典:2025年10月23日 日本経済新聞「宿泊税でみる東京観光」ほか
観光庁、環境省、京都市・ニセコ町・沖縄県公表資料を参考に再構成
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
