補助金や助成金を受給した法人では、行政監査や外部会計監査への対応が求められます。
その際に重要となるのが、「監査対応マニュアル」の整備です。
事前にマニュアルを持つことで、監査対応の負担を軽減し、返納リスクや信頼低下を防ぐことができます。
本稿では、税理士・FPが顧問先の補助金会計を支援する際に役立つ、実践的な監査対応マニュアルの作成手順を紹介します。
1. 監査対応マニュアルの目的と基本構成
監査対応マニュアルは、補助金事業の計画から報告までの流れを文書化し、誰が見ても判断できる「証拠」として残すためのものです。
基本構成は次の4章立てが効果的です。
- 第1章:基本方針と責任体制
― 補助金の目的、交付要綱の概要、担当部署・責任者の明示 - 第2章:事業計画と予算管理
― 補助対象経費の定義、見積・契約・支払の手順 - 第3章:支出・報告手続の記録
― 証憑保存、報告書作成、電子データ管理のルール - 第4章:監査・検査対応
― 点検チェックリスト、質疑対応の流れ、改善報告書の作成方法
税理士・FPが監修する場合は、第2章と第4章を重点的に整備することで、会計処理と監査説明の整合性が確保されます。
2. 実務で使える監査チェックリスト(抜粋)
| 区分 | 確認項目 | 対応状況 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ① 補助金交付決定 | 交付要綱・申請書・決定通知の保存 | □済/□未 | 交付額・期間を確認 |
| ② 経費支出 | 補助対象経費と一般経費の区分が明確 | □済/□未 | 経費分類表を添付 |
| ③ 契約・見積 | 相見積書の保存、競争性確保 | □済/□未 | 調達手続記録あり |
| ④ 支払処理 | 領収書・振込記録の突合 | □済/□未 | 電子保存の可否を確認 |
| ⑤ 報告書作成 | 実績報告書と会計帳簿の一致 | □済/□未 | 差異がある場合は理由記録 |
| ⑥ 未使用残額 | 残高確認・返納処理の有無 | □済/□未 | 年度末残高を確認 |
| ⑦ 改善対応 | 過去指摘事項の再発防止策 | □済/□未 | 改善報告書を添付 |
このチェックリストをExcel等で定期更新することで、補助金事業のPDCA管理が容易になります。
3. 改善報告書フォーマット例
監査で指摘を受けた場合には、「改善報告書」を迅速に提出することが求められます。
以下は標準的なフォーマットの例です。
補助金等改善報告書(標準様式)
- 事業名:〇〇補助金(令和6年度)
- 実施主体:株式会社〇〇〇〇
- 指摘事項:経費区分の誤り(旅費と委託費の混在)
- 原因分析:経理担当者による支出区分の理解不足
- 是正内容:経費科目の一覧表を作成し、承認手続きを明確化
- 再発防止策:職員研修の実施、二重チェック体制の導入
- 提出日:令和7年〇月〇日
- 責任者:代表取締役 〇〇〇〇
このように、指摘の背景・原因・是正・防止策をセットで文書化することで、会計検査院や行政監査において「改善姿勢を示す資料」として評価されやすくなります。
4. 顧問税理士・FPの役割
税理士・FPが補助金会計に関与する際は、次の3つの立場を意識することが重要です。
- 予防型支援:申請段階から交付要綱・経費区分をチェックし、誤申請を防止
- 伴走型支援:事業進行中の経理相談・支出管理を定期点検
- 監査対応支援:報告書・改善書の作成補助、行政との折衝サポート
この三層支援を通じて、顧問先の信頼性を高めるとともに、税理士・FP自身の専門領域を拡張できます。
結論
補助金・助成金の監査対応は、事後的な対応ではなく「仕組みづくり」で決まります。
税理士・FPがマニュアル整備を主導することで、クライアントは事業運営の透明性を確保し、補助金の返納リスクや指摘リスクを大幅に軽減できます。
公共資金を扱う事業において、「説明できる会計」こそが最大の信頼資産です。
マニュアルの整備は、その第一歩といえるでしょう。
出典:
・会計検査院「令和6年度決算検査報告」
・経済産業省「補助金等に係る経理処理要領」
・総務省「行政評価・監視マニュアル」
・日本経済新聞(2025年11月6日朝刊)「税の無駄遣い540億円 昨年度、検査院報告」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
