苦境に立つ介護保険制度と「ケアマネジャー司令塔論」

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わが国の介護保険制度は、制度創設から四半世紀を迎える中で、かつてない転換点に立たされています。
高齢化の進行とともに介護サービスの利用者と給付費は急増する一方、支え手である現役世代や介護人材は減少を続けています。
2027年度に予定されている介護保険制度の見直しは、こうした構造的な行き詰まりにどう向き合うのかが問われる重要な局面です。

本稿では、制度が直面する危機の本質を整理したうえで、今後の改革の方向性として注目される「ケアマネジャーの役割再定義」について考えていきます。


介護保険制度を取り巻く構造的危機

介護保険制度の最大の課題は、需要と供給のバランスが大きく崩れている点にあります。
高齢化の進展により、介護サービス利用者は制度開始時の数倍に増加し、介護給付費も右肩上がりで拡大しています。
一方で、生産年齢人口は減少を続け、現役世代一人当たりの負担は年々重くなっています。

保険料の引き上げには限界があり、介護報酬を大幅に引き上げる余地も乏しい状況です。
その結果、介護職員の賃金は十分に上がらず、人手不足が慢性化しています。
このように、財源・人材の両面で制度の持続可能性が揺らいでいるのが現状です。

さらに問題を複雑にしているのが、地域差の拡大です。
都市部と中山間地域では、高齢化の速度や人口減少の度合いが大きく異なり、全国一律の制度設計では対応が難しくなっています。


見直し議論の焦点と限界

2027年度の制度見直しに向けた議論では、いくつかの重要な論点が示されています。

一つ目は、地域の実情に応じたサービス提供体制への転換です。
人口減少が著しい地域では、訪問介護などの事業が成り立たなくなりつつあり、包括的な支払い方式などによる事業者支援が検討されています。

二つ目は、自己負担割合の見直しです。
現在、介護保険の利用者負担は1割が大半であり、2割以上の負担をしている人はごく一部にとどまっています。
対象範囲を広げることで財政改善効果は見込めるものの、必要な介護を控える事態を招くおそれもあり、慎重な議論が求められます。

三つ目は、住宅型有料老人ホームなどにおける「囲い込み」問題です。
同一法人がケアマネジメントと介護サービスを一体で提供することで、必要性の低いサービスが過剰に提供される構造が指摘されています。

ただし、これらの見直し案はいずれも部分的な対処にとどまり、介護保険制度の根本的な構造問題を解決する決定打とは言い難いのが実情です。


ケアマネジャーを「司令塔」とする発想

こうした行き詰まりを打開する方策として注目されているのが、ケアマネジャーの役割の再定義です。

現在の制度では、利用者、介護事業者、ケアマネジャーのすべてが「サービス量を増やす方向」に動機づけられています。
出来高払いの報酬体系のもとでは、サービスを多く提供するほど収入が増え、介護の成果や効率性は評価されにくい構造になっています。

ケアマネジャーを単なる調整役ではなく、「介護費用と成果の両方に責任を持つ司令塔」と位置づけることで、この構造を転換できる可能性があります。

そのために重要とされる要素は、次の四点です。

第一に、ケアマネジメントの独立性の確保です。
介護事業者との垂直的な関係を断ち、利用者本位の判断ができる環境を整える必要があります。

第二に、成果に基づく評価の導入です。
介護費用の抑制や重度化防止といったアウトカムを評価指標とし、ケアマネジャーに適切な権限と責任を持たせることが求められます。

第三に、処遇の改善です。
役割の高度化に見合った報酬体系を整えなければ、担い手不足は解消されません。

第四に、効果検証の実施です。
改革の成果を検証し、エビデンスに基づいて制度設計を進める姿勢が不可欠です。


結論

介護保険制度の危機は、一時的な財源不足や人手不足ではなく、制度そのものの構造に起因しています。
小手先の負担調整や規制強化だけでは、持続可能性を回復することは難しいでしょう。

ケアマネジャーを制度の司令塔として位置づけ、介護の質と効率を両立させる仕組みを構築できるかどうか。
この視点こそが、これからの介護保険制度改革の成否を左右する重要な鍵になると考えられます。


参考

・日本経済新聞
「苦境の介護保険制度(上) ケアマネジャーを司令塔に」
飯塚敏晃・東京大学教授
2026年1月30日朝刊


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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