苦境に立つ介護保険制度――給付と負担をどう見直すべきか

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介護保険制度は、高齢期の生活を社会全体で支える仕組みとして2000年に創設されました。しかし制度開始から四半世紀が近づく中で、その持続可能性は厳しく問われています。
2025年末に社会保障審議会介護保険部会が取りまとめた制度見直しの意見書は、2027年度改正に向けた方向性を示しましたが、内容は全体として慎重で、踏み込み不足との評価も少なくありません。
本稿では、今回の見直し議論の要点を整理し、介護保険制度が直面する構造的な課題について考えます。

介護保険制度が抱える財政的現実

介護保険の給付費は年間約12兆円規模に達しており、今後も高齢化の進行に伴って増加が見込まれています。特に85歳以上人口は今後も増え続け、要介護認定率も極めて高い水準にあります。
こうした状況下で、現行制度を前提としたまま国民負担を抑制し続けることには限界があります。給付水準を維持するのであれば、負担のあり方を避けて通ることはできません。

今回の見直し議論で焦点となった三つの論点

今回の審議で最も議論を呼んだのは、給付と負担の見直しに関する次の三点です。

第一に、一定以上の所得を有する高齢者の自己負担割合(2割負担)の対象拡大です。能力に応じた負担という考え方は示されたものの、結論は先送りされました。

第二に、ケアマネジャーによるケアプラン作成への利用者負担の導入です。こちらも一部限定的な方向性にとどまり、制度全体への導入には至っていません。

第三に、要介護1~2の軽度者向け生活援助サービスを、保険給付から市町村主体の地域支援事業へ移行する案です。こちらも検討継続という形で結論は見送られました。

いずれの論点も、制度の持続可能性を考える上で重要ですが、実際の改革は極めて限定的です。

改革の効果とその限界

仮に、2割負担の所得基準引き下げやケアプラン作成費用への定率負担を導入したとしても、財政効果は合算で給付費全体の1%未満にとどまります。
それでもこれらの改革には、「高齢者にも能力に応じた負担を求める」という明確な政策メッセージとしての意味があります。制度への信頼を現役世代との間で再構築する上で、象徴的な役割を果たす可能性があります。

一方で、過度な負担増は高齢者の生活の質や尊厳を損なうリスクも伴います。いわゆる「経済毒性」を避けながら、どこまで負担を求めるのかという線引きは極めて難しい問題です。

公費拡大論と保険料抑制論の落とし穴

介護保険における公費負担をさらに拡大すべきだという意見もありますが、現行制度ですでに財源の約半分は公費で賄われています。これ以上の拡大は、社会保険制度としての枠組みそのものを揺るがしかねません。
また、現役世代や企業の負担軽減を目的とした保険料抑制も、長期的には給付基盤の弱体化を招く恐れがあります。一度失われた介護サービス提供体制の再構築には、長い時間が必要となります。

おわりに

介護保険制度の苦境は、単なる制度設計の問題ではなく、人口構造と社会全体の負担のあり方に起因するものです。
現実的な改革を一つひとつ積み重ねることを前提に、社会保険料と税を含めた国民負担の拡大をどう受け止めるのか、高齢者世代への再分配をどう設計し直すのかが、避けて通れない論点となります。
介護保険制度は、将来の自分自身を支える制度でもあります。感情論や先送りではなく、冷静で持続可能な議論が求められています。


参考

・日本経済新聞 経済教室
「苦境の介護保険制度(下) 給付・負担の見直しを粛々と」
高野龍昭・東洋大学教授


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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