若い世代の間では「将来は年金がもらえない」「年金額は大幅に減る」という不安が広がっています。特に雑誌やSNSでは「モデル年金が今後2割減る」といった情報だけが切り取られやすく、将来像が悲観的に語られがちです。
しかし、実際の年金額はモデル年金だけでは分からない構造になっています。女性を中心に厚生年金加入期間が長期化していることや、受給開始後の調整の仕組みを踏まえると、現役世代の年金は“購買力ベース”でみると増える可能性すらあります。
この記事では、将来の年金を判断するためのポイントをわかりやすく整理し、「正しく心配する」ための視点を紹介します。
● なぜ「若い世代は年金が減る」と誤解されるのか
ニュースなどで目にする「モデル年金」は、会社員の夫と専業主婦の妻という古い家族像を前提にした試算です。しかし、現在は共働きが主流であり、このモデルでは実態を反映できません。
「モデル年金が減る」=「すべての人の年金が減る」とは限らないのです。
● 厚生年金加入期間は若い世代ほど長くなる
厚生労働省が2024年財政検証に基づきまとめた推計では、女性の厚生年金加入期間は次のように伸びる見通しです。
- 現在65歳(2024年時点):平均17年
- 現在50歳:平均23年
- 現在30歳:平均30年
つまり、共働きで長く働くほど、将来受け取る年金の「2階部分(厚生年金)」が大きくなる構造です。
男性も同様に加入率が高まりつつあります。
● 実質ベースでは若い世代の年金額は増える可能性
経済が「過去横ばい(実質成長率0%)」の場合の試算では、以下のような結果になります。
- 現在30歳の実質年金額
→ 現在65歳の受給開始額に比べ 約9%増 - 現在20歳
→ 同基準で 約16%増
これは将来の物価を考慮した「実質額」です。年金の購買力を知るうえで最も重要な指標です。
女性の増え方は特に大きく、
現在20歳の将来受給額は 30%増の見通し とされています。
● 「受給開始後」の減額を踏まえても若い世代の総受給額は増える
受給開始後には、マクロ経済スライドによる調整が一定期間続きます。そのため「受給開始後も減る」と聞くと不安になりますが、実際には以下の要因が総額にプラスに働きます。
- 若い世代ほど厚生年金加入期間が長い
- マクロ経済スライドの適用が、若い世代では比較的早期に終了する見通し
厚生年金加入増を反映した総受給額の試算は次のとおりです。
- 現在の65歳:総受給額 約9,740万円
- 現在35歳:総受給額 約1億820万円
若い世代ほど総受給額が増えるという結果です。
● 少子化だけでは将来の年金は語れない
確かに少子化は進んでいますが、財政にプラスの変化もあります。
- 加入者数が予測より増加
- 死亡率が想定より高まり年金支給期間が短縮傾向
- 法改正により加入対象が広がっている
単一の指標だけで年金の将来を語ることはできません。
● とはいえ「何も心配しなくてよい」わけではない
年金財政は厳しい現実があります。必要な改革としては次のような点が挙げられます。
- 長寿化に合わせた基礎年金の加入期間の見直し
- 厚生年金加入対象のさらなる拡大
- マクロ経済スライドの運用改善
しかし、「どうせ年金はもらえない」と誤解して加入を避けたり、保険料を未納にしたりすると老後が一層不安定になります。
重要なのは、悲観しすぎず、楽観しすぎず、「正しく心配する」ことです。
結論
将来の年金を判断するには、モデル年金や所得代替率といった一部の数字だけでは不十分です。現役世代の働き方が変化し、厚生年金加入期間が大幅に長期化している点を踏まえると、若い世代の年金の「実質額」や「総受給額」はむしろ増える可能性があります。
その一方で、制度の持続性のためには継続的な改革が必要です。年金制度に過度に悲観的になるのではなく、制度を正しく理解し、自分自身が長く働き、厚生年金にしっかり加入することが老後の安定につながります。
出典
・厚生労働省「2024年 財政検証関連資料」
・大和総研 年金分析レポート
・日本経済新聞「若者ほど総受給額は増加」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

