「退職したけれど、失業給付がすぐにもらえない」。
これまで自己都合退職を選んだ方の多くが直面してきたのが、失業保険の「給付制限期間」でした。
2025年4月1日から施行された「雇用保険法等の一部を改正する法律」により、この給付制限が大きく緩和されました。キャリアチェンジやリスキリング(学び直し)を考えている方にとって、非常に追い風となる制度改正です。今回はそのポイントと注意点を整理し、今後の働き方やライフプランにどう活かせるかを解説します。
1.従来の「給付制限」とは?
自己都合で退職した場合、これまでは以下のような流れでした。
- 待期期間7日間
- 給付制限2カ月(原則)
- → 給付開始
つまり、実際に失業給付(基本手当)が支給されるのは、退職から 2カ月+7日後。その間、収入が途絶えてしまう人も多く、「転職までの生活費が厳しい」との声が上がっていました。
一方で会社都合の退職(解雇や倒産など)の場合は給付制限がなく、待期7日が終わればすぐに給付を受けられたため、両者の差が大きな課題となっていました。
2.2025年4月以降の新ルール
改正後は、以下のように短縮・緩和されました。
- 待期期間:7日間(従来通り)
- 給付制限:原則1カ月に短縮
- 例外:教育訓練を受講した場合
- 離職前1年以内、または離職後に国指定の教育訓練を受けた場合は「給付制限なし」
- 待期7日終了後すぐに給付開始
整理するとこうなります。
- 【従来】待期7日+給付制限2カ月 → 給付開始
- 【改正後】待期7日+給付制限1カ月 → 給付開始
- 【教育訓練受講者】待期7日 → すぐに給付開始
これは、自己都合退職後の生活不安を和らげると同時に、学び直しを通じて再就職を支援する狙いがあります。
3.注意すべき例外ルール
ただし、すべてのケースで給付制限が1カ月に短縮されるわけではありません。以下の点に注意してください。
- 過去5年以内に2回以上自己都合退職した人
→ 給付制限は3カ月となる - 重責解雇(重大な過失による解雇)
→ 給付制限は3カ月。教育訓練を受けても免除されない - 教育訓練の範囲
→ 対象は「教育訓練給付金の対象講座」や「公共職業訓練」など国が指定するものに限られる
「どの講座が対象か」はハローワークや厚生労働省のサイトで確認しておく必要があります。
4.在職中も対象──教育訓練休暇給付
さらに2025年10月1日からは、在職中の方にも使える新制度が始まります。
- 教育訓練休暇給付
在職中に教育訓練のために休暇を取得した場合、失業給付と同額が支給される制度。
つまり「退職してから学ぶ」だけでなく、「働きながら学ぶ」選択肢も広がるということです。キャリアアップや資格取得を考えている人にとっては、非常に心強い制度設計といえます。
5.改正の意義
今回の改正には大きく3つの意味があります。
- 経済的な安心感の提供
失業直後の無収入期間が減り、安心して次の一歩を踏み出せる。 - キャリアチェンジの促進
教育訓練を受ければ即時給付が可能となり、リスキリングの動機付けが強まる。 - 働き方の多様化への対応
転職が当たり前になりつつある時代に即した仕組みへアップデート。
6.活用のヒント(FP・税理士視点)
制度を最大限に活かすには、事前の計画が欠かせません。
- 退職時期を調整する
2025年3月退職と4月退職では給付制限に2カ月の差。可能であれば改正後に退職する方が有利。 - 教育訓練を活用する
対象講座を事前にリサーチしておき、離職前から受講開始しておけば、待期7日後すぐに給付を受けられる。 - キャッシュフローを考える
失業給付だけでなく、退職金や貯蓄の取り崩しと合わせて生活資金計画を作成することが重要。 - 再就職後の税金・社会保険を見据える
退職金課税、住民税の納付方法、再就職時の社会保険の切り替えなど、ライフイベントに伴う税務・社会保険の影響も忘れずに。
まとめ
2025年4月からの雇用保険改正により、自己都合退職者への給付制限は大幅に緩和されました。特に「教育訓練を受講すれば即時給付」という仕組みは、キャリアチェンジや学び直しを後押しするものです。
また、同年10月には在職中の「教育訓練休暇給付」も始まり、働きながらスキルアップする環境も整備されます。
これからの時代は「キャリアを一度で終わらせない」生き方が当たり前になっていきます。制度を上手に使いこなし、安心して次の一歩を踏み出していきましょう。
📌 出典:厚生労働省リーフレット「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」
📌 参考:日本FP協会「トレンドウォッチ」コラム(2025年9月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
