職場をさいなむ「軽度うつ」と向き合うということ――ケアする人を含めた社会の再設計

人生100年時代
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近年、職場で増えているのは、いわゆる重度のうつ病だけではありません。出社が困難になる一方で、私生活では一定の活動ができる状態、あるいは「不調」と「日常」の間を揺れ動く状態にある人が目立つようになっています。
このような「軽度」と見なされがちなうつ状態は、本人だけでなく、上司や人事担当者、同僚といった周囲の人々にも大きな負荷を与えています。日本経済新聞の「今を読み解く」で上田紀行氏が論じた内容は、職場と社会がこの問題にどう向き合うべきかを考える上で、重要な示唆を含んでいます。

「軽度」に見える不調がもたらす深刻な影響

記事で触れられている「新型うつ」や「半うつ」は、従来型のうつ病とは異なる特徴を持ちます。一日中抑うつが続くのではなく、周囲からの評価や些細な言葉に強く反応し、自己否定感から立ち直れなくなる状態です。
背景には、家庭や学校、職場における自己肯定感の低下、他者の視線への過度な敏感さ、コミュニケーションの断絶があります。重要なのは、これらが「甘え」や「怠け」ではないという点です。本人は確かに苦しんでおり、その苦しみは職場全体に波及していきます。

「半うつ」という段階でのケアの意義

平光源氏の『半うつ』が示すように、うつ状態には段階があります。セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経物質の不足が軽度の段階であれば、生活習慣や環境調整によって回復の余地は大きいとされています。
この段階でのケアは、本人にとっても、組織にとっても負担が比較的小さく、結果として重症化を防ぐ可能性が高まります。「気合」や「努力」の問題ではないと明確に示すこと自体が、当事者を追い詰めないための重要な一歩になります。

ケアする側の孤立という見えにくい問題

一方で、見落とされがちなのが「ケアする人」の疲弊です。部下や同僚の不調に対応する上司や人事担当者が、次々と心身の不調に陥るケースは珍しくありません。
東畑開人氏の『雨の日の心理学』が強調するのは、専門家ではない私たちが、無自覚のままケアを引き受け、結果的に状況を悪化させてしまう危険性です。さらに、ケアを担う仕事は組織内で正当に評価されにくく、孤立を深めやすいという構造的問題もあります。

つながりの中で回復するという視点

上田氏が紹介するスリランカの村の儀式は、象徴的です。孤立した個人を「治す」のではなく、共同体全体で包み込み、踊りや笑いを交えながら回復を支える。
ここで重要なのは、治療とケアが社会から切り離されていない点です。軽度のうつ状態は、つながりの中でこそ和らぎ、回復の道筋が見えてきます。これは医療や福祉の話にとどまらず、職場や地域社会の在り方そのものを問い直す視点でもあります。

結論

職場をさいなむ「軽度うつ」は、決して周縁的な問題ではありません。それは、働き方、評価制度、ケアの分担、そして人と人との関係性が、現在の社会でどのように歪んでいるかを映し出す鏡でもあります。
当事者を早い段階で支えること、ケアする人が孤立しない仕組みを整えること、そして個人を切り離さず、つながりの中で回復を支える視点を持つこと。これらは、職場の生産性向上という短期的な目的を超え、生きる「豊かさ」を再構築するための、未来志向の課題だと言えるでしょう。

参考

・上田紀行「職場をさいなむ『軽度』うつ」日本経済新聞(2025年12月13日)
・平光源『半うつ』サンマーク出版
・東畑開人『雨の日の心理学』KADOKAWA


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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