老後資金に対する不安は、多くの場合「足りるかどうか分からない」という漠然とした感覚から生まれます。
定年が視野に入る50代以降は、老後に向けた資産形成の最終局面とも言える時期です。しかし、忙しさに追われる中で、自分がいまどれだけの金融資産を持っているのかを正確に把握できていない人は少なくありません。
こうした不安を整理するために有効なのが、金融資産の棚卸しです。年末という節目を活用し、現在の資産状況を一度立ち止まって点検することで、老後資金を現実的に考える土台が整います。
老後資金の不安は「把握できていない」ことから始まる
銀行口座はいくつもあり、証券口座では積立投資を続けている。確定拠出年金や保険にも加入しているが、全部を合計するといくらになるのか分からない。
このような状態は、決して珍しくありません。
転職や制度変更を重ねる中で、金融資産は複数の場所に分散していきます。毎月の収支は把握していても、資産全体を確認する機会がないまま時間が過ぎてしまうことが、不安の正体になっています。
なぜ「棚卸し」が老後資金の第一歩なのか
老後資金を考える際に重要なのは、いくら増やすかよりも、まず「いま、何をどれだけ持っているのか」を知ることです。
資産の棚卸しとは、金融資産を一度すべて洗い出し、全体像を見える形にする作業です。
棚卸しを行うことで、次のような点が明確になります。
- 資産がどの金融機関に分散しているか
- 預貯金と運用資産のバランス
- 忘れていた資産や重複した口座の存在
老後資金を考えるうえでの出発点は、増やすことではなく、把握することにあります。
棚卸しの対象となる金融資産
棚卸しでは、思いつく限りの金融資産を対象にします。
具体的には、銀行の普通預金や定期預金、証券会社の課税口座や少額投資非課税制度の口座、勤務先の確定拠出年金や社内預金などが挙げられます。
見落としやすいのが、貯蓄性のある保険です。養老保険、学資保険、終身保険などに加入している場合、解約したときの返戻金は金融資産としての価値を持ちます。保障と資産の両面を意識して整理することが大切です。
一覧にすることで見えてくるもの
金融資産を書き出して一覧にすると、多くの人が共通して気づく点があります。
それは、預貯金の比率が想像以上に高いということです。
長年にわたりコツコツと貯めてきた結果、現金や保険に資産が集中しているケースは少なくありません。これは安心感につながる一方で、今後の物価上昇を考えると別の視点も必要になります。
本シリーズで考えていくこと
本シリーズでは、老後資金をめぐる不安を感覚ではなく、整理された情報として捉えることを目的とします。
第1回となる今回は、そのための土台として、資産の棚卸しの重要性を確認しました。
次回以降は、棚卸しをどのように実践するか、資産をどのように分類して考えるか、そしてインフレ時代に老後資金とどう向き合うかを段階的に整理していきます。
結論
老後資金の不安は、数字が見えないことから生まれます。
年末に金融資産を棚卸しし、全体像を把握することは、不安を現実的な課題へと変える第一歩です。
老後資金づくりは、増やす前に整えることから始まります。
参考
日本経済新聞
老後資金、棚卸しで点検――インフレ考慮し運用戦略を(2025年12月20日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

