前回までで、老後資金を考えるための第一歩として、金融資産の棚卸しを行いました。
すべての資産を一覧にすると、合計額は把握できても、「このお金を老後でどう使うのか」「どこまで減っても大丈夫なのか」といった点は、まだ見えにくいかもしれません。
そこで重要になるのが、資産を役割ごとに分けて考えるという視点です。老後資金は、一括りにして考えるのではなく、目的別に整理することで、安心感と判断の軸が生まれます。
老後資金は「性格の違うお金」の集合体
金融資産は、すべて同じ役割を持っているわけではありません。
すぐに使う可能性のあるお金もあれば、しばらく手を付けずに置いておくお金もあります。老後資金を考える際には、まずこの違いを意識することが重要です。
資産を役割別に整理することで、守るべきお金と、育てることができるお金が区別できるようになります。
三つの資産に分けて考える
老後資金の整理では、金融資産を大きく三つに分けて考えると分かりやすくなります。
それぞれの特徴を確認していきます。
流動性資金
流動性資金とは、日常生活や突発的な支出に備えるお金です。
生活費の数か月分から一年分程度を目安に、すぐに引き出せる普通預金などで確保します。
老後が近づくにつれ、医療費や家電の買い替えなど、予期しない支出が増える可能性があります。流動性資金は、安心して生活するための土台となる資産です。
安全性資金
安全性資金は、数年以内に使う予定があるお金や、減らしたくないお金です。
定期預金や個人向け国債、満期が決まっている貯蓄性保険などが該当します。
住宅の修繕費や、子や孫への資金援助など、使い道がある程度見えている資金は、この枠で管理すると考えやすくなります。元本の安全性を重視するのが特徴です。
リスク性資金
リスク性資金は、長期的な運用によって増やすことを期待するお金です。
投資信託や株式などがこれにあたります。
老後資金というと、リスクを取ることに不安を感じる人も多いかもしれません。しかし、老後まで10年以上の時間がある場合、インフレを考慮すると、一定のリスク性資産を持つことには意味があります。
三分類で見えてくる資産の偏り
棚卸しした資産を三つに分けてみると、多くの人が共通して感じることがあります。
それは、流動性資金と安全性資金に偏り、リスク性資金が少ないという点です。
これは、長年にわたり「貯めること」を重視してきた結果であり、必ずしも間違いではありません。ただし、今後も物価が上昇する環境が続くと仮定すると、現金中心の資産構成には別のリスクがあることも意識しておく必要があります。
老後資金は「全部安全」では成り立たない
老後資金という言葉から、すべてを安全資産で持つべきだと考えがちです。
しかし、老後生活は数十年に及ぶ可能性があります。短期の安定だけでなく、長期での実質的な価値の維持という視点も欠かせません。
三つの資産に分けて考えることで、必要以上に不安にならず、自分なりのバランスを検討できるようになります。
結論
老後資金は、金額だけでなく役割で整理することが重要です。
流動性資金、安全性資金、リスク性資金という三つの視点で資産を見直すことで、老後資金の全体像が立体的に見えてきます。
次回は、この資産配分を考えるうえで避けて通れない、インフレという環境変化が老後資金に与える影響について整理します。
参考
日本経済新聞
老後資金、棚卸しで点検――インフレ考慮し運用戦略を(2025年12月20日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
