1. 名目賃金は上がっても「生活が楽にならない」理由
2022年度以降、日本は久しぶりにインフレ局面に入りました。
企業は過去30年以上で最高水準の賃上げを実施し、2024年は5.10%、2025年も5.25%と「歴史的な賃上げ」が続いています。
しかし生活実感は「苦しいまま」。その理由は、物価上昇に追いつかない「実質賃金の低迷」です。
2. 実質賃金はリーマン・ショック級の下落
厚生労働省の毎月勤労統計をもとにすると、2021年度を基準とした実質賃金は、2024年度までに累計▲4.4%、2025年度も7月までに▲0.4%程度の落ち込み。
3年間で4%以上の下落は、リーマン・ショックや2014年の消費増税後と並ぶ規模です。
3. 経済界が掲げる「複数年賃上げ」
経団連は2026年春闘に向け、複数年にわたるベア(基本給底上げ)の方針を検討。
ゼンショーHDは「2030年まで毎年ベアを続ける」と宣言しました。
単年度の成果ではなく、継続的なモメンタムを社会全体で作り出せるかどうかが焦点です。
4. 中小企業と大企業で広がる格差
ただし、この「歴史的賃上げ」が日本全体に行き渡っているかというと、そうではありません。
- 大企業:内部留保や海外展開を背景に、比較的余裕を持って5%以上の賃上げを実施
- 中小企業:原材料費や人件費の高騰に苦しみ、価格転嫁が難しく、賃上げ幅は限定的
厚労省統計は従業員5人以上の企業を対象にしており、零細規模を含めた現場では「賃上げどころか人件費を抑えるしかない」という声もあります。
つまり、統計上の平均値が「5%超の賃上げ」となっていても、実際の体感には大きなバラツキがあるのです。
これが「実感なき賃上げ」という声を生む背景でもあります。
5. FP視点① ― 生活防衛の工夫
- 通信費・保険料・サブスクの整理
- ふるさと納税やポイント還元の活用
- 住宅ローンの金利見直し
物価高に追いつかない分は、まず家計の「守り」で対応します。
6. FP視点② ― インフレに強い資産形成
- 株式・インデックス投資
- 不動産や金など実物資産
- 国内外への分散投資
「現金の価値が目減りする」という意識を持つことが大切です。
7. FP視点③ ― 副業・学び直しで収入源を増やす
- 副業での収入複線化
- DX・会計・語学などのスキル習得
- 家族単位での税・社会保険最適化
賃上げだけに頼らず「稼ぐ力」を自ら強化する動きが重要です。
8. FP視点④ ― 年金水準と実質賃金の関係
年金額は「物価」と「賃金」の動きに連動します。
- 賃金の伸びが物価に追いつかない → 将来の年金額は伸び悩む
- 実質賃金の低迷が長期化 → 老後の生活水準にも影響
したがって、今の現役世代は iDeCoや新NISAで自助努力を強化 する必要があります。
9. まとめ ― 「実感ある賃上げ」と生活設計
- 名目賃金は上がっても、実質賃金は3年で4%以上減少
- 大企業と中小企業の格差もあり、「実感なき賃上げ」が広がる
- 経済界は「複数年賃上げ」で流れを定着させようとしている
- 生活者は「防衛・資産形成・副業」の3本柱で備える
- 年金水準への影響も見据え、長期的な資産形成を加速させる必要あり
2026年以降の春闘や政権の政策が「実質賃金の安定的なプラス」を実現できるかどうかは、日本社会全体の未来に直結します。
そして私たち一人ひとりも、自らの生活戦略を主体的に描くことが求められています。
👉 参考:日経新聞 2025年9月23日朝刊
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
 
  
  
  
  
