2025年10月、自民党と日本維新の会が結んだ連立政権合意書に「給付付き税額控除の早急な制度設計」が盛り込まれました。
この言葉、最近ニュースでよく見聞きするようになりましたが、「そもそも何?」「誰が恩恵を受けるの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
◆ 給付付き税額控除とは?
通常、所得税は「税額控除」や「所得控除」によって減税されますが、税額が少ない人は引き切れずに控除の恩恵を受けにくいという課題があります。
そこで考えられているのが「給付付き税額控除」。簡単に言えば、引き切れなかった分を現金で支給する仕組みです。
たとえば5万円の控除があって、実際の課税額が3万円なら、残り2万円を現金で給付する――これが給付付き税額控除の考え方です。
この方式は、所得が低い層ほど支援が手厚く、所得が増えるにつれて給付額が減る「段階的支援」となります。
「必要な人に的を絞った支援」を実現できる点が、現金一律給付などよりも効率的といわれています。
◆ 背景にある「社会保険料負担の重さ」
給付付き税額控除が注目される背景には、日本の社会保険料の逆進性の問題があります。
日本総合研究所の翁百合氏の分析によると、日本では年収300~400万円あたりの世帯で負担率が急に上がる傾向が見られます。
つまり、平均的な共働き世帯にとって、税や社会保険料の負担が「重すぎる」のです。
たとえばOECD(経済協力開発機構)諸国の比較では、同じ年収帯で日本の負担率は他国よりも高く、しかも子育て世帯への支援も薄いという結果になっています。
「低所得でもないけれど裕福でもない」層が最も苦しい――これが現在の日本の構造的な問題です。
◆ 所得分布の“下方シフト”も深刻
一橋大学の小塩隆士教授の研究では、2020年から2023年にかけて、世帯所得350万円未満の層が増え、350万円以上の層が減少していることが示されています。
つまり、所得分布そのものが下方にずれているのです。
コロナ給付金(1人10万円)や最近の賃上げの動きでも、この構造的変化を止められていない。
「賃上げの恩恵を受ける人」と「そうでない人」の格差が拡大している可能性も指摘されています。
◆ 支援の焦点:子育て世帯・年収400万円前後まで
これらの分析を踏まえると、給付付き税額控除の中心的な支援対象は次のようなイメージになります。
- 子育て世帯に重点的に支援
- 世帯年収400万円程度までを手厚くカバー
- 必要に応じて中所得層(600~700万円前後)まで対象拡大
全世帯の約7割をカバーする構想も検討されています。
◆ 技術的課題と今後の焦点
制度の設計では、次のような技術的・財政的な課題が避けて通れません。
- 世帯単位の所得把握をどう行うか
- 控除額や給付額の算定方式をどうするか
- 財源をどこに求めるか(社会保険料・消費税・所得税の組み替え)
一方で、超党派での議論が始まりつつあり、「所得再分配」「中間層の再建」「社会的公正」といったテーマの下、政治的合意形成が進む可能性があります。
◆ おわりに ― 給付付き税額控除は“静かな税制革命”になるか
給付付き税額控除は、単なる減税策ではなく、「働く世代の社会保障再設計」という大きな流れの中にあります。
所得再分配を強化し、中間層を支えることができれば、消費の底上げにもつながり、結果的に経済全体を安定させることが期待されます。
政治の駆け引きが続くなかで、
「誰を助けたいのか」
「どんな社会を目指すのか」
――その原点を忘れずに、腰を据えた議論を見守りたいところです。
出典・参考:
2025年10月21日 日本経済新聞「給付付き控除、恩恵は誰に」/翁百合「税・社会保険料負担率の国際比較」(日本総合研究所)/小塩隆士「所得分布の変化と再分配効果」(一橋大学)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
