「減税」と聞くと、すぐに家計が助かるイメージを持つ人は多いでしょう。
けれども、税制の世界には似て非なる仕組みが存在します。
それが「給付付き税額控除」です。
最近では、与野党双方が導入を議論しており、物価高・低所得者支援の“新しい打ち手”として注目を集めています。
第2回は、「給付付き税額控除」と「減税」の違いを、家計への影響・制度設計・日本での導入課題という3つの視点から見ていきましょう。
◆1. 「減税」と「税額控除」の違いを整理しよう
まず基本の構造から。
税制上の控除には大きく2種類あります。
1つ目が「所得控除」、2つ目が「税額控除」です。
- 所得控除:所得から一定額を差し引く(例:基礎控除・配偶者控除など)
- 税額控除:計算された税額から直接差し引く(例:住宅ローン控除・ふるさと納税控除など)
つまり、税額控除は「計算した税金そのものを減らす」強力な控除です。
ここに「給付付き」という要素が加わると、“引ききれない控除額を現金で給付する”という形になります。
たとえば、所得税額が3万円で税額控除が5万円の場合、差額の2万円を国が給付してくれる仕組みです。
◆2. 給付付き税額控除の特徴と狙い
この制度のポイントは、「税を納めていない層」にも支援を届けられるという点です。
通常の減税では、もともと税金をあまり払っていない人には効果が届きません。
たとえば、非課税世帯や低所得者は、減税の恩恵をほとんど受けられない構造です。
しかし、給付付き税額控除であれば、
税額控除額 > 納税額 の部分を“現金給付”として支給できるため、
税制を通じて再分配(給付)を行うことが可能になります。
具体例で考えてみましょう。
| 区分 | 年収 | 所得税額 | 給付付き税額控除額 | 給付(還付)結果 |
|---|---|---|---|---|
| Aさん | 400万円 | 10万円 | 8万円 | 税額2万円減 |
| Bさん | 150万円 | 2万円 | 8万円 | 6万円の給付を受け取る |
こうしてみると、Bさんのような低所得層にこそ手厚い支援が届く仕組みであることが分かります。
「税制」と「社会保障」をつなぐ、“ハイブリッド型”の政策なのです。
◆3. 世界ではすでに当たり前の制度に
給付付き税額控除は、海外ではすでに一般的な制度です。
- 🇺🇸 米国:EITC(勤労所得税額控除)
→ 年収が低い勤労者世帯に対して、所得に応じた給付を行う。働けば働くほど支援が増える仕組み。 - 🇬🇧 英国:ワーキング・タックスクレジット(Working Tax Credit)
→ 低所得世帯や子育て世帯向けの現金給付制度。税務当局が支給を管理。 - 🇨🇦 カナダ:GST/HSTクレジット
→ 消費税負担を軽減する目的で、低所得者に直接給付。年4回、自動的に支払われる。
いずれも「所得情報に基づいて支援対象を選定」し、
本当に支援が必要な層へ、確実にお金を届けるという点で共通しています。
日本でもこの仕組みを導入できれば、給付金のような“ばらまき”ではなく、税務データを活用した「ピンポイント支援」が可能になります。
◆4. 日本導入への課題と今後の展望
とはいえ、日本での導入にはいくつかのハードルがあります。
(1)行政のデータ連携・システム整備
所得情報・世帯情報を税務署と自治体でスムーズに共有できなければ、正確な給付判定ができません。
マイナンバー制度の整備が進みつつありますが、地方自治体間での情報連携にはまだ課題があります。
(2)申告手続きの煩雑化
制度を利用するには、確定申告や申請が必要となる可能性があります。
高齢者や非正規労働者など、申告に不慣れな層への支援体制が不可欠です。
(3)政治的な課題
「給付付き税額控除」は、見方によっては“恒久的なベーシックインカム”に近い性質を持つため、
制度の設計次第では財政負担が大きくなる懸念もあります。
そのため、導入にあたっては「どこまでの所得層を対象にするか」「所得捕捉の精度」を慎重に設計する必要があります。
◆5. 減税とのちがいを一言でまとめると?
| 比較項目 | 減税 | 給付付き税額控除 |
|---|---|---|
| 対象 | 納税者全体 | 低〜中所得層中心 |
| 効果 | 税額を減らす | 税額を減らし、足りない分は現金給付 |
| 即効性 | 高いが一時的 | 持続的な再分配効果あり |
| 財政負担 | 税収減 | 支出増(給付)として計上 |
| 制度目的 | 景気刺激・負担軽減 | 格差是正・生活支援 |
減税は“広く・浅く”、
給付付き税額控除は“狭く・深く”──そんな違いがあります。
つまり、「誰にどんな支援を届けたいのか」という政策目的によって、選ぶべき手段が変わるのです。
◆まとめ
日本の税制はこれまで、「集める」仕組みには強くても、「返す」仕組みには弱い構造でした。
しかし、物価高・格差拡大・単身世帯の増加といった新しい現実に対応するには、
「税と給付の一体化」が避けて通れません。
給付付き税額控除は、まさにその“橋渡し”となる制度。
単なる減税よりも、よりきめ細かく、持続可能な支援を実現できる可能性があります。
出典:2025年10月11日 日本経済新聞「インド、大型減税で特需 自動車・家電、販売伸ばす」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

