生成AIの進化により、企業実務のさまざまな分野で業務効率化が進んでいます。しかし、経理部門における活用は、他部門と比べて慎重になりがちです。請求書や契約書、決算関連資料など、極めて機微な情報を扱う以上、情報漏えいや法的リスクへの不安が根強いためです。
もっとも、生成AIは「使ってはいけないもの」ではありません。正しい環境とルールの下で利用すれば、経理実務の質とスピードを大きく高める可能性を秘めています。本稿では、生成AIを経理実務に活用する際の法的な考え方と、実務に即した活用の方向性について整理します。
経理実務における生成AIの位置づけ
近年、ERPや会計システムの高度化により、数値データなどの「構造化データ」の処理は飛躍的に効率化しました。一方で、その前段階にある契約書、請求書、メールといった「非構造化データ」の読解や整理は、依然として人手に頼る部分が大きく、業務効率化のボトルネックとなっています。
生成AIは、この非構造化データを読み解き、会計システムが扱える形に整理する役割を担います。生成AIと既存の会計システムを連携させることで、経理実務の次の段階が見えてきます。
「正しい環境と設定」が法的安全性の前提
生成AIに契約書や請求書を入力すること自体が、直ちに違法となるわけではありません。重要なのは、どのような環境と設定で利用しているかです。具体的には、次の三点がポイントになります。
第一に、入力データが生成AIの学習に利用されない設定であることです。いわゆるオプトアウトがなされていない場合、入力情報がモデル学習に使われる可能性があり、これは情報管理上の重大なリスクとなります。
第二に、生成AIの提供事業者が守秘義務を負っていることです。利用規約において、入力データの取扱いや秘密保持がどのように定められているかを確認する必要があります。
第三に、その情報をクラウド上にアップロードしてよいという社内ルールが整備されていることです。生成AIへの入力は、クラウドストレージへの保存と同様の行為と捉えることができます。社内規程との整合性が不可欠です。
個人情報とマイナンバーの取扱い
請求書や契約書には、取引先担当者の氏名や連絡先などの個人情報が含まれます。これらを生成AIに読み込ませることについては、一定の前提条件を満たせば、個人情報保護法上も問題とならないケースが多いと整理できます。
一方で、マイナンバーについては慎重な対応が求められます。マイナンバーは目的外利用が原則として禁止されており、生成AIに入力する業務自体が想定されにくい情報です。実務上は、黒塗りや記号化などの措置を講じ、生成AIに入力しない運用が現実的でしょう。
野良AIと使用者責任
社内ルールが整備されていない場合、従業員が個人アカウントの生成AIを業務に使用する、いわゆる「野良AI」が発生します。もしこれにより情報漏えい等が生じた場合、会社が使用者責任を問われる可能性があります。
生成AIの活用を進めるのであれば、禁止するのではなく、会社として安全な利用環境を整え、利用可能なサービスと投入可能な情報を明確にすることが重要です。
著作権と契約書読解への活用
生成AIの利用にあたっては、著作権にも注意が必要です。専門誌や書籍など、著作権で保護されたコンテンツをそのまま読み込ませ、要約を社内共有する行為は、著作権侵害となる可能性があります。生成AIに入力するデータは、自社が権利を有するものに限定する姿勢が求められます。
一方で、契約書の読解において生成AIは大きな力を発揮します。契約の種類や法的性質を整理することで、費用の期間帰属、源泉徴収の要否、新リース会計基準における契約識別など、判断ミスが起こりやすい論点の精度向上が期待できます。
経理部門で生成AIを活かすための準備
生成AI活用の最大の壁は、技術ではなく組織文化にあります。経理部門はルール重視の文化が強く、新しいツールに対して保守的になりがちです。この壁を越えるには、経営層やCFOが明確な方針を示し、安全な利用環境を整備することが不可欠です。
また、生成AIはデジタルデータしか扱えません。契約書の電子化、請求書のデータ受領、社内コミュニケーションのデジタル化など、業務プロセス全体のデジタル化が前提となります。
結論
生成AIは、経理実務において非構造化データを扱う力を飛躍的に高めるツールです。法的リスクは確かに存在しますが、それらは「正しい環境とルール」を整えることで、管理可能なリスクへと変わります。
重要なのは、生成AIを避けることではなく、理解したうえで使いこなすことです。生成AIと既存システム、人の判断を組み合わせたハイブリッドな業務フローこそが、これからの経理部門の姿と言えるでしょう。
参考
企業実務 2026年2月号 セミナーレポート「経理実務における生成AI活用の法的留意点とは? 法的リスクに配慮した活用事例」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

