空き家問題は、不動産や相続の問題として語られることが多いテーマです。しかし実務の現場で見えてくるのは、空き家の多くが「相続の結果」ではなく、「相続に至る前」で止まっているという現実です。居住者が亡くなった後、誰も動かず、死後事務や初期対応が行われないまま時間だけが経過することで、住宅は空き家化します。
空き家は個人の財産問題にとどまらず、地域全体の安全や景観、自治体財政にも影響を及ぼします。終活インフラの視点から、空き家問題を捉え直す必要があります。
空き家は「死後事務の未履行」から始まる
多くの空き家は、相続登記がされていないことが原因だと理解されがちです。しかし、その前段階として、死亡後の初動が止まっているケースが少なくありません。
死亡届の提出、火葬や葬儀の手配、住居の施錠、電気・水道・ガスの停止、家財の整理といった死後事務が履行されないまま、住宅は放置されます。この段階で、すでに空き家問題は発生しています。
身寄り力が不足している場合、誰がこれらを担うのかが曖昧になり、結果として住宅は無管理状態に陥ります。
相続人がいても空き家は発生する
空き家は「相続人がいない人」の問題だと考えられがちですが、相続人が存在していても発生します。相続人が遠方に住んでいる、関係が希薄で関与しない、複数人いて意思決定がまとまらないといった理由から、誰も主体的に動かないケースは珍しくありません。
相続人同士が「誰かがやるだろう」と考えている間に、住宅は劣化し、近隣への影響が顕在化します。これは相続制度の欠陥というより、終活インフラの不在がもたらす問題です。
地域インフラとしての影響
空き家が放置されると、防災・防犯上のリスクが高まり、雑草や老朽化による苦情対応、固定資産税の滞納など、自治体の負担も増大します。空き家は、個人の問題であると同時に、地域インフラの問題でもあります。
終活インフラが整備されていれば、死亡後の早い段階で住宅の管理や処分方針を決めることができ、空き家の長期化を防ぐことが可能になります。
結論
空き家問題は、相続の結果ではなく、終活インフラの不在が生み出す現象です。死後事務と相続を一体として設計し、誰が動くのかを明確にすることが、空き家対策の出発点となります。
参考
日本経済新聞
「終活インフラ」を整えよう(2025年12月30日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
