2026年春季労使交渉(春闘)は、日本の家計・消費構造を左右する重要な分岐点となります。物価高が続くなか、実質賃金は長期間にわたりマイナス圏にあり、家計の消費余力は低下しています。一方で株高が続き、富裕層の高額消費は拡大しています。この二極化が深まるなか、賃上げがどこまで進むかは、家計の再生と消費の広がりに大きな影響を与えます。
本稿では、26年春闘で期待される賃上げが、家計・消費構造にどのような変化をもたらすのかを考察します。
1. なぜ「2026年の賃上げ」がこれほど重要なのか
その理由は三つあります。
- 物価上昇が長期間続いているため
エネルギー・食料品・サービス価格など幅広く上昇し、実質賃金は低迷しています。 - 消費二極化が構造化し始めているため
富裕層以外の層が支出を抑制し、日本の消費全体が弱さを抱えています。 - 企業収益が改善し、人手不足も深刻化しているため
経済環境が賃上げを後押ししやすい状況にあります。
これらの要素が重なり、2026年春闘は“中間層の生活再建”にとって極めて注目される局面となっています。
2. 賃上げが家計にもたらす三つの変化
(1)家計の「防衛消費」の緩和
近年は生活必需品への支出が優先され、外食・旅行・耐久財への支出が抑制されてきました。
賃上げにより実質的な可処分所得が増えると、
- 外食
- レジャー
- 教育
- サービス消費
といった分野が回復する可能性があります。
(2)耐久財購入の後押し
住宅ローン負担の増加や物価高で買い控えていた
- 自動車
- 家電
- リフォーム
などの耐久財に買い替え需要が戻ることが期待されます。
(3)若年層の投資余力の回復
NISAの普及で若年層の投資参加が増加していますが、投資額が限られているのは「手取りの不足」が大きな要因です。
賃上げは次のような行動につながります。
- 生活費と投資のバランス改善
- 積立額の増加
- iDeCoの掛金増加
- 長期投資の継続性向上
賃上げは、若年層の資産形成にも直接的に貢献します。
3. 賃上げが企業行動をどう変えるか
(1)賃上げは内需拡大の呼び水となる
中間層の消費が戻ることで、企業は生産・サービス供給を増やす余地が生まれます。
(2)人材確保の競争が激化
賃金が上がりやすい業界とそうでない業界で格差が広がる可能性があります。
特に中小企業では原資確保が課題となり、価格転嫁力の差が企業の命運を分けます。
(3)賃上げが投資の促進材料に
企業が賃上げを継続するには、
- 生産性向上
- DX投資
- AI・ロボット活用
が不可欠です。
賃上げは企業改革のアクセルにもなります。
4. 賃上げが進んでも残る課題
(1)物価上昇を上回るかどうか
賃上げ率が高くても、物価高を超えなければ実質賃金は改善しません。
(2)非正規雇用への波及
正社員中心の賃上げでは、家計全体の購買力回復には不十分です。
(3)住宅費・教育費の上昇
都市部では住宅費が依然として重く、中長期的な家計改善の妨げとなります。
賃上げの恩恵が広く波及するかどうかは、こうした構造問題の解消と不可分です。
5. 消費構造はどのように変わるか
賃上げが実質所得の改善につながれば、日本の消費構造には次の変化が期待されます。
- 高額消費偏重からバランス型消費へ
富裕層中心だった消費回復が、中間層にも広がる可能性があります。 - サービス消費の復活
外食・旅行・教育・美容など、体験型消費が戻りやすくなります。 - 耐久財の買い替えサイクルの正常化
物価高で遅れていた買い替え需要が動きやすくなります。 - 若年層の投資余力拡大
投資文化の定着が進むことで、資産形成の格差是正にも寄与します。 - 地域経済への波及
観光・外食・サービス業を中心に地方経済にもプラスの効果が生まれます。
賃上げの波及は、消費二極化の緩和に向けた最も現実的な解決策の一つです。
結論
26年春闘の賃上げは、長く続いた実質所得の低迷を反転させる重要な契機となります。株高による高額消費が目立つ一方で、中間層・若年層の消費は依然として慎重です。この状況を変えるには、賃金上昇によって広い層の購買力が回復することが不可欠です。
賃上げは単なる所得増ではなく、
- 家計の安心感の回復
- 消費構造の正常化
- 若年層の資産形成強化
- 地域経済の底上げ
につながる重要な政策効果を持ちます。
26年春闘がどこまで賃上げを実現できるかが、日本経済の次の成長ステージを決める鍵となります。
参考
・日本経済新聞「株高で高額消費活況 消費増効果1.5兆円試算も」(2025年12月8日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
