第7回 遺族の負担を減らす“生前整理”実務ガイド(遺言書と人生デザインシリーズ)

FP
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遺言書が「将来の争いを避けるためのツール」である一方で、近年大きく注目されているのが “生前整理” です。
生前整理は、亡くなる準備ではなく、自分らしく生きるための整理であり、遺族の負担を軽くする効果も絶大です。

相続手続きの現場で最も大変なのは、

  • 何がどこにあるのかわからない
  • デジタル資産の情報が不明
  • 書類が散乱している
  • 保険の加入内容がわからない
  • 故人の意向が読み取れない

といった“情報不足”です。
これを整理しておくことで、遺族の心の負担も、事務作業の負担も、驚くほど軽減できます。

本稿では「生前整理で最低限やるべきこと」を、税理士・FPの視点で体系的にまとめます。

1.生前整理は“老後をより良く生きるための準備”

生前整理というと、
「亡くなる前の準備」というイメージがあるかもしれません。

しかし実際には、

  • お金の見える化
  • モノの整理
  • 心の整理

を通じて、これからの人生を安心して楽しむための行為です。

遺言書と生前整理を組み合わせることで、
“今を生きるゆとり”が生まれます。


2.生前整理の3本柱

生前整理は、以下の3つに分けて考えるとスムーズです。


① 財産の整理(お金・金融資産)

② モノの整理(生活用品・家財)

③ 情報の整理(デジタル遺品・重要書類)

これらを同時に進める必要はなく、
「気になっているところから」始めるのがコツです。


① 財産の整理(もっとも重要)

1)預貯金・金融資産の棚卸し

銀行口座・ネット銀行・証券会社・企業型DCなど、
すべて一覧化します。

一覧表に記載すべき情報

  • 金融機関名
  • 支店名
  • 種類(普通・定期など)
  • 口座番号
  • 現在の残高
  • ログイン方法(パスワードは別管理)

預金が多すぎて管理しきれない場合は、口座の整理も行います。


2)保険契約の確認

  • 死亡保険
  • 医療保険
  • がん保険
  • 共済
  • 企業の団体保険

保険の“受取人”を確認しておくことは非常に重要です。
遺言書とは別に、保険金は受取人が最優先されるためです。

受取人が元配偶者のままになっているケースも多く、
誤った受取人設定はトラブルの原因になります。


3)不動産の整理

以下の書類をそろえ、内容を確認します。

  • 登記事項証明書
  • 固定資産税評価証明書
  • 権利関係(持分割合など)
  • 名義変更の必要性
  • 売却や賃貸の予定

家族が知らない不動産があると、相続手続きが混乱します。
一番負担の大きい“名義不一致”を防ぐ上でも重要な作業です。


4)借金・クレジット・ローン

借入金がある場合は正直にリスト化します。

相続人は借金も相続するため、情報がないと問題になります。
リスト化しておくだけで、遺族は大きな安心を得られます。


② モノの整理(最も重労働だが効果が大きい)

1)家の中の“使っていないもの”の整理

  • 家具
  • 家電
  • 衣類
  • 趣味道具
  • 思い出の品
  • 書籍
  • 食器

荷物が多いほど遺族の負担は重くなります。

ポイントは「捨てる」のではなく「未来に必要なものを選ぶ」こと。


2)写真・アルバム・手紙の整理

大量の写真は、遺族を苦しめる典型的なパターンです。
デジタル化、テーマ別の整理などを行うと負担が減ります。


3)高級品・美術品は“価値”をメモ

  • 宝石
  • 着物
  • 掛け軸
  • 骨董品

価値がわからないと遺族が処分しにくいので
「どの程度の価値か」をメモしておきます。


③ 情報の整理(現代では必須)

1)デジタル遺品の管理

現代の相続トラブルで最も増えているのが“デジタル資産”です。

例:

  • オンライン証券
  • 暗号資産
  • オンラインサロン
  • SNS
  • サブスク
  • クラウドストレージ
  • スマホ内のデータ

最低限、
「どのサービスを利用しているか」だけでもリスト化
しておくと、遺族は大きく助かります。


2)重要書類の整理

以下の書類は一ヶ所にまとめておくのが理想です。

  • マイナンバーカード
  • 保険証
  • 銀行通帳
  • 印鑑・実印
  • 不動産関係書類
  • 年金手帳
  • 社会保険関係通知
  • 契約書

この“書類の一元管理”は、手続きのスピードを劇的に変えます。


3)エンディングノートの活用

エンディングノートは法的効力はありませんが、
以下の情報を残すのに非常に有効です。

  • パスワードのヒント
  • 親戚や友人の連絡先
  • 葬儀や供養の希望
  • 医療介護の希望
  • 財産一覧の補足説明

遺言書とセットで作成すると、
家族が迷うポイントがほぼなくなります。


4)医療・介護の意思表示(ACP)

人生の最終段階で

  • どこで過ごしたいか
  • 延命治療を望むか
  • 介護の希望
    などを事前に話しておくと、家族の心理的負担が大きく減ります。

これは遺言書の守備範囲外のため、生前整理で必須の項目です。


④ 生前整理で「やってはいけない」3つのこと


① 捨てすぎて家族が困る

思い出の品をすべて処分すると、
“家族が大切にしていたものまで消える”ことがあります。

「自分にとって不要」=「家族に不要」ではありません。


② 財産情報を家族に全く伝えない

特にデジタル資産は、情報がなければ消えてしまいます。
最低限の所在は伝えておきます。


③ 家族信託・贈与と混同する

生前整理は財産管理そのものではありません。

  • 贈与
  • 信託
  • 遺言書
    などの制度とは目的が異なります。

制度の誤用は税務上大きなリスクになります。


⑤ 生前整理は「自分の人生を取り戻す時間」

生前整理を進めた方がよく言う言葉があります。

「やる前は億劫だったけれど、やり始めたら気持ちが軽くなった」
「家族に迷惑をかけないという安心感がある」
「もう一度人生の棚卸しができて良かった」

生前整理は、
人生の後半を“より楽しく、安心して生きる”ための行為です。

遺言書が“死後の整理”だとすれば、
生前整理は“今とこれからの整理”。

両方をそろえることで、あなたの人生デザインはより豊かになります。


結論

生前整理は「何かが起きる前に負担を減らす準備」ではなく、
“今をよりよく生きるためのプロセス”です。

  • 財産の整理
  • モノの整理
  • 情報の整理
    を進めることで、
  • 家族の負担が軽くなる
  • 相続手続がスムーズ
  • 認知症リスクにも対応
  • 自分の人生の方向性が明確に
    という大きなメリットが得られます。

遺言書と生前整理は、「未来」と「現在」をつなぐ両輪です。
両方を整えることで、あなた自身も家族も安心して日々を暮らせるようになります。


出典

・日本経済新聞「遺言書、今を楽しむために」(2025年12月1日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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